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「ますみちゃん、カラオケ行かない?」
「カラオケ?えっと…」
ますみちゃんは歯切れが悪そうに俺の誘いを断る。
「人とカラオケに入るのはダメって母が言ってて」
「大丈夫だよ!少しくらい平気さ!」
「で、でも」
俺は無理矢理カラオケにますみちゃんを連れ込む。ますみちゃんは歌うことが好きだと俺は知っている。ますみちゃんは人の誘いを断れないと俺は知っている。だから強引に連れていける。
俺はますみちゃんの歌う歌をいっぱい聞いた。どれも恋愛の曲ばかりで、ときにはストーカーの曲もあった。
「信さんは歌わないの?」
「うーん、現代の子が歌うような曲は歌えないかな」
俺がやんわりと断ると、むーっと頬を膨らませてますみちゃんは俺にマイクを持たせた。
「私昭和の曲も大丈夫だよ!歌ってほしいな」
力強く、正面から言うものだから俺はつい、気持ちよく歌い始めてしまった。一人目の妻にはよく言われたものだ。「歌が下手」だと。
ひどいよな、「歌が下手だから子守唄なんて歌うな」って。俺は確かに子供への愛情を持って精一杯歌ったのに。
裏声が汚い自分の声を自覚しながら、それでも歌っていればますみちゃんは嬉しそうに聞いてくれている。それがとても、すごく、嬉しかった。
歌い終わった俺はふと、思った。
「あのとき落としたのは、俺の不幸な人生だったのかな」
財布と言う名の落とし物を拾ってくれた彼女との出会い。それはまさしく、「幸せ」と呼ぶにふさわしいものだった。
「なぁ、ホテル行かないか?ビュッフェ予約してあるんだよ。3時から」
ホテル。きっと今どきの娘ならそれが何を意味するか知っているだろう。
もしかしたら今度こそは流石にきっぱり断られてしまうかもしれない。そんな不安がありながらも、何故か俺は断られない自信があった。
「…いいの?!やったぁ、行く!」
ほら、言っただろう?きっと俺が結婚してくれと言ったら、年の差であろうが何だろうが結婚してくれる。
だがその結婚を確実にするためには、種を植え付けなければならないのだ。
さて、時刻は午後2時。ホテルに着いた俺たちはチェックインを済ませて個室に入った。
「あれ?ビュッフェだけじゃないの…きゃあ?!」
個室の鍵ががちゃりとオートで閉まったのを確認して、俺はますみちゃんをベッドに押し倒す。
「ど、どうしたの信さん!」
俺の息は既に上がっていて、全身は興奮していた。こんなに可愛い女の子と一緒にいられるだけで幸せなのに、永遠の愛を、これから二人で誓うのだ。
「俺が絶対幸せにするよ!俺の子を産んでくれ、ますみ!」
そんな、ベタな告白をして俺はますみちゃんの顔に近づく。綺麗な顔立ちだ。
出会った頃から、ずっとこうしたいと思っていた。メイド喫茶なんかじゃ足りない。夜の街なんかじゃ足りない。
「ますみが、良いんだ」
いやよいやよも好きの内。たとえこれが強姦だと称されようとも、たとえますみちゃんが本気で嫌がって抵抗したとしても、俺は離さない。
決して、ますみちゃんを―――。
「…わぁ、嬉しい!真純ね、信さんの名前を聞いたときからずっとこうしたかったの!」
「…え?」
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