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部屋を出て、真琴さんに聞いてみる。
「こんな感じでいい?」
トートバッグにタオルやら詰め込んでいる彼女の後ろから声をかけた。
手を止めてこちらを振り向くとニコッと微笑んでくれた。
「何持っていくの?」
「まあ、ウエットティッシュと、しずかさんがこぼしたときのタオルと、しずかさんが転んだときのタオルと…」
「えー!? 私そんなにドジじゃないよ」
「ま、それは冗談」
ペロッと舌を出して笑う真琴さんにパンチをお見舞いする。
「ぐほっ……。ごめんて。まあ最低限の需要品だよ。支度はバッチリですか?」
「うん」
「ハンカチとティッシュは?」
「持ったよ。…て子供じゃないし」
「あははは」
「もうっ」
(何だかずっとからかわれてる気がするなぁ)
もしかして、さっきお花見優先したの、密かにご立腹なのでは?
「真琴さん」
「ん~?」
ローテーブルに出している需要品を詰めながら返事をする彼女の様子を見て確信した。
「拗ねてるの?」
「……いいえ?」
「拗ねてるんだ?」
「……そんなわけ…」
「イチャイチャしたかったんだ?」
「まあね」
「ぷっ。素直」
「夜の独り寝が堪えて…」
顔を覆ってさめざめと泣く仕草を見せる真琴さんを目を細めて見つめた。
(何? この愛しい生き物…)
胸がキュンとなる。
高鳴る鼓動、熱を帯びる頬が紅潮を知らせてくれた。
近づいて抱きしめる。
「私も寂しかったよ。病院は自由に動けないし。1週間の半分は体起こせなかったから…」
「寂しかった分、ぎゅ───っとしてください。しずかさん」
「真琴さんも、して?」
2人でぎゅ────っと抱きしめ合う。
呼吸が苦しくなるくらい、お互いをお互いに閉じ込めるように、力いっぱい抱きしめた。
体温が、匂いが、密着している箇所から立ち昇るようだ。
好きな匂いにうっとりする。
「しずかさんの補給完了」
「ん?」
耳元で囁かれた言葉にキョトンとしていると、ゆっくり抱擁が解かれる。
「お花見、行くんでしょ?」
「う、うん」
「もう出ないと、遅くなると冷えるかも」
「そうね…」
真琴さんの瞳に映る自分を見つめてると、彼女は幸せそうに微笑んで言った。
「心配しなくても、帰ったらたっくさん愛してあげるよ」
「……約束?」
弱いのをわかっていて、あえての上目遣いで真琴さんを見る。
「約束」
出された小指に自分の小指を絡め、指切りげんまんをすると満足した。
ほわっと温かい空気が自分を包んでいる。
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