願う 

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僕はソファーに寝転がり、腹のあたりに顎を乗せたゴールデンレトリーバーのバディの首に指を差し込み、耳の後ろ付け根あたりをガシガシと撫でながら母の話に耳を傾けていた。犬はシャンプー後のみ許される室内とソファーにご満悦の様子。 随分大きくなった彼女の腹を優しく撫でると、バディは閉じていた目をうっすら開き僕を見る。強くしたら噛むわよ、そう言っている。母犬になるバディは従順でありながらも、抗えぬ本能の色が濃くなったように感じる。 シャンプー後、ブラシ通す度脱衣所にふわふわと金色の被毛が舞う。静電気でいたるところにくっつきまくる。彼女を拭いたタオルを洗濯後、乾燥機にかければ中は見事に乾燥済みの毛でいっぱいだ。母に毎度別で洗えとこっぴどく文句を言われるのがお決まりのルーティーン。 リンス効果も相まって、バディの被毛は犬が到達し得る最も高い美しさを得ていた。 僕はバディが大好きだ。 ある月のない夜。 バディは3匹の子犬を産んだ。彼女は良い母犬になった。 一ヵ月後。子犬達がヨタヨタと歩き回り始めた頃、母が倒れた。脳梗塞だった。 僕は自室のベッドの中にいた。 外が騒がしい事に気づき、2階の窓から様子を伺った。 救急車が家の前に止まり、救急隊員が担架を運んでいる。赤いランプが煌々と眩しいほどで。でも、母の顔が見えたのかはよく覚えていない。 窓を開けると兄が言った。家にいろ、後で連絡するからと。 僕は返事代わりに手を降った。いってらっしゃいと軽い気持ちで兄と去っていく救急車に手を振った。 しばらくすると大通りの方から、ピーポーピーポーという音が響いてきてそして遠のいていった。 翌朝、おじさんが僕を迎えに来たんだ。しばらくの間、僕はおじさんの家にお世話になるんだって。
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