願う 

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僕はバディと子犬達も一緒に連れて行って欲しいと言った。 おじさんはそれどころではないからと言ったんだ。でもおじさんは優しいから明日、犬達の様子を見にいくからと約束してくれた。 外の犬小屋に閉じ込めておくのが嫌で、僕は小屋の扉を開けてアンディをつないだ。車にひかれるとダメなので子犬達も紐で繋いだ。自由に動けないと可愛そうだから、少し長めの紐でそれぞれ繋いで、餌も水も山盛り。 それから僕はおじさんの車で病院へ向かったんだ。 母はとても危険な状態ではあったものの無事手術は終わり、助かった。大学病院からたまたま有名な脳外科の先生が来ていたらしく、母を助けてくれた。 おじさんもおばさんも神様に感謝していた。 翌朝、早くから僕はおじさんにせっつき自宅へ連れて行ってもらった。 車から降り一目散に犬小屋へ向かった。何かがおかしいと気づいたのはすぐの事だった。 スコンと抜けそうな程良く晴れた日だった。見慣れた住宅街、L字にカーブした私道の脇にはガーデニングの延長程度の小さな田んぼがあって、その向こう側には僕の同級生が住んでいてね、その家はシベリアンハスキーのオス犬がいた。 フェンスと植え込みの隙間からハスキーのシルが僕達を見てた。尾を垂直に垂らし声も出さずただじっと僕達を見てた。 静かだった。 僕はバディの名前を呼びながら犬小屋へ近づく。でも返事がない。地面に打ち付けたアンカーにジャラリと鎖がぶつかって小屋の中で犬が動いたのが伝わった。 でもバディは姿を見せない。 僕の心はざわついて、歩く度に踏みしめた砂の音が頭に直接響いてこだましてうるさいんだ。 胸がどうしようもなくドキドキと脈打って苦しかった。 薄暗い犬小屋で仔犬達は死んでいた。 バディは小屋の隅に行儀よく座り、シルがそうしたように僕をじっと見つめた。僅かにふさふさの尾が揺れ、二度前足だけで足踏みするしぐさを見せたけれど、彼女が僕に歩み寄る事は無かった。 ただじっとそこに座り、何も言わず僕を見ていた。
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