願う 

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その夜、容態が急変した母。 母の命はしゃぼん玉のように、跡形もなくはじけて消えた。 火葬場で白い煙になって青空へ登っていく母を見て僕は思ったんだ。命は等価なのだと。おじさんが言った言葉は本当で、仔犬は死ぬ運命だった母の身代わりで死んだのだ。 その命を僕は神様に返してもらった、だから母の命は足りなくなり死んのだ。 仔犬はたまたま蘇生しただけ、母は単に病で死んだ、切り取って冷静な頭で考えればそうなのだろう。でも子供の僕が感じた感覚はそれを否定する。 ”命”という生き物にはどうしようもないものを扱うことが出来る力、神の力を僕は肌身で知った。そして知ったんだ。与えもし奪いもする、その力は1つだという事。ヒトが神や悪魔と呼ぶ存在は1つなのだと。 僕が願ったのが神なのか悪魔なのか、それは知らない。でもきっと同じことだ。 あの日、僕は二度と願うなんて浅はかな行為はしないと誓った。 あなたは神を信じますか? 清水丈(しみず じょう)、彼は再び願わずに済むよう十数年後獣医という道に進む。でもそれはまた別のお話し。 おしまい
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