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 夕暮れを受け入れ始めた教室の隅で、スクールバッグを肩から提げたまま、まさにキスを交わそうとしている男女がいた。  思わず漏れた俺の呟きに気づいて、はっと振り向くふたり。  男のほうは、「やべっ」とでも言いたげな顔で俺を見やり、女のほうは、驚いたような呆気に取られたような眼差しで、ひまりを見つめている。ただし、ひまりと違って、そこに傷心の色はない。  ――なんだ、なんだ? この状況。  だって、だって。こんなやっすい恋愛ドラマみたいなシーンに出くわして、隣のこいつが面白がるんじゃなく、こんな顔してるってことは、たぶん、つまりそういうわけで。  そんでもって俺は、俺は……  混乱している俺をよそに、 「……っ!」  ひまりは涙目で俯いて、その場から逃げるように駆け出す。彼女のスクールバッグが、ドンッと俺の胸に当たった。  瞬間、かすかな甲高い音とともに、足もとに何か落ちたような気配がしたので、 「お、おいっ!」  あわてて呼び止めたが、廊下を一目散に駆けていく彼女が振り返る様子はない。  結局声出しちゃったからプラマイゼロだな、俺。
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