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第一話 黒猫
十七年生きて来た。
誰もいない部屋で、メモに残された行ってきますとただいまの文字。
いつからだ?この文字の人(父親)を見ていない。
だだっ広い空間には、あちこち散らばった者たち、洗濯、ごみ、めんどくせえ。
毎日変わらない。ラップのかかった飯、昨日の残り。いつからだろう、一人で作って食べることを覚えた。胃の中に流し込むだけの食事。この家畜のような生活はなんだろうか?
なんのために生きてんだ?
食べ終わったものを流しにある桶の中に水とともに入れた。
人間てなんなのだろう?
玄関でズックを履きながら考える。
振り向いた。
いつからだろう、カーテンも開けていない、明かりの入らない部屋は、暗くさみしい。
下駄箱の上、昨日倒した写真立てが直っていた、両親の笑い顔、その間にいる俺は幼稚園児、そこから先の写真はない。
パタンと写真を倒した。
ガチャンと大きな音を立て閉まったドア。鍵をかけた。
またねぐらに安心して帰ってこれる、それだけの箱だ。カギを握りしめてそこから離れる。毎日の繰り返し。毎日見る風景、変わるのは天気だけ。
親にとっての子供の存在ってなんなんだろう?
食わせて大きくさせて、自分の最後を世話してもらうだけ?それだけでいいのなら、人形、ロボットでいいんじゃねえ?
男は、種だけ持ってりゃいいのか?女は産むだけでいいのか?
…学校、なんのために行くんだろ?
一人、この先も一人ぼっち。
一生一人ぼっち。
生きてる意味。わかんねえ。
チリリン。
目の前を黒猫が横切った。
すましたような顔、赤い首輪に大きな鈴がついている。目が合った。
「何見てんだよ!」
猫にすごんでみても何も変わるはずがない。
学校、行きたくねえなー。
さぼるか?
くるりと方向転換、いざ、学校と反対方向へ!
みんなが駅へと向かうのに逆らうように進んでいく、足がある限り歩け、あるけ、アルケ。
遠足のような、小学生にでも戻ったような感じ。大通りから離れて知らない細い路地、探検だ。
お金はもったいないからな、それでもスマホを出して、イヤホンを出し、好きな音楽を聴きながら、ぶらぶらと歩いた。
ヒュッ!
「うわー」
目の間に何かが落ちてきたというか、それを踏んずけそうになって思わず大きな声を出してよろけてしまったんだ。
よろけた瞬間に落ちた耳のイヤホン。それと同時に耳の中に入って来た音。
―――チリリン。
ドサッ!俺は尻もちをついた。
澄ましたような黒猫と目があった。
凄んでみよう、あ、あれれ?
行ってしまう黒猫。
「お前、さっきも俺の前に」
そう言うと、猫は立ち止まり、横切った方へは行かずに、俺の目の前まで戻ってきた?
ただ、目線が、どこかを見ているというか、なんだか獲物を捕らえる時のように、前足を前に伸ばし、体を弓のように下に向けた。
「おい、ちょっと待て、俺は何にもしてねえ!」
今にも襲いかかってきそうな体制!
「お、おい!やめろ!」
シュッ!と飛び跳ねたと思ったら、ドアップ、前足が見事に俺の額にヒット。ペチ。と肉球が音を立てた。
ゴン!
「いってー!」
思い切り顔めがけて飛んできた黒猫に足蹴になり、俺は道に大の字になってしまった。
その拍子に頭を道路に打ち付け、後ろ頭を押さえながら、もがいた。
「いってーよ!」
チリリン
「ふん!」
「フンてなんだよ、お前今フンって言ったな!」
猫が歩き出した、その先に見えた物?
鳥居?
起き上がり、頭を擦りながら、猫の後をついていった。
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