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おぼろげな記憶。 覚えているのは声。武骨な指。それと後ろ姿だった。 幾度となく転生を繰り返していた。(ことわり)などまるで無視して。 それもこれも、ただ()の人に逢うために。 確証を得るために、自分の意思に関わらずには必ずを落としていく。 それが『命と記憶の時間』だった。 それを辿れば人生の分岐点に戻れるが、転生を繰り返せる時限は決まっていて、探している人物を見つけない限り『命と記憶の時間』は尽きてしまう。 「きっと来世で結ばれよう」 「次の世で必ず添い遂げよう」 同じような言い回しを同じ声で何度聞いたことか。 今生で結ばれなければ意味がないのではないのか。自問自答をし続け、彼の人を探し続け、転生し続け…命も記憶も、もう尽きかけている。 「チャンスはあと三回か」 ずっと覚えていられた声・指・後ろ姿の中から、次に分岐点に差し掛かったときどれか1つの記憶を落としていかなければならない。 「早く見つけてくれ…」 漆黒の闇の中、遥か彼方に伸びる白い人生(みち)は必ず二股に分かれる。 どちらに進もうと、必ず二股に。 要するに彼の人に逢えるか、逢えないか、の二択だということ。 どこの分岐にいるのか皆目見当がつかないため、彼の人が見つけてくれるのを待つか、自分で偶然見つけるか。 残りが少ない。 「もう探すのは諦めるか…?」 口のなかでぶつぶつと話す。 次の分岐が見えてくる。 右も左も白い人生(みち)に落とす記憶を決めた。 自分に、武骨ながらも優しく触れていた指への思い入れを。 置いていく。 「できることなら、もう…失くしたくないな…」 残すは心地よい耳障りのいいアルトボイス、そして筋肉質な背中だ。 分岐を進む。 自分頬を何度も滑る指の記憶を置いて。 この先に、いてくれることを願って…歩き続けた。
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