焼きそばパンが売れなければやつらが来ることもない

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 二勝二敗。  何をもって勝利をいうのか。  彼女らはいつから何を争っているのか。  つーかそもそも戦っているのか。  あのふたりの関係を深掘りするのは俺には荷が勝ち過ぎている気がするが、俺の目の前で特に予告もなくおっぱじめられた焼きそばパンの取り合いについては二勝二敗と言っていいだろう。  俺が知らないだけで実は今までずっとおさげ眼鏡が勝ってて百勝二敗とかの可能性ももちろんあるが、月曜日のおさげ眼鏡の様子を見た感じだとあそこからすべてが始まっていたのではないかと、俺は思う。  月曜日から始まったのであれば、この争いも週末金曜日のこの一戦で一旦決着と考えていいだろう。  特に根拠は無い。ただ極めて個人的に決着してほしい。ください。このしょうもなくも壮絶な総菜パンの取り合いを来週以降に持ち越すのは頼むからやめろ。  まあ、なにを言ったところでそれでも昼休みはやってくる。  昼休み、それは休みとは名ばかりの俺にとっての主戦場。  それはここに訪れる生徒にとっても、いや、空腹を満たすために限られた食い物を奪い合う、むしろ彼らには俺以上に必死の戦場だろう。俺自身は食事時間をずらす必要はあれど食う物に困ることはないのだから。  ならば俺は戦場の生徒たちにどう接するべきだろう。大人として啓蒙できることがあるんじゃなかろうか。  そんな考えを弄んでいるうちにも総菜パンは飛ぶように売れていく。焼きそばパンも例外ではない。  残りよっつ、みっつ、ふたつ。  それが最後のひとつになったとき、彼女たちは現れた。  片やこの上なく地味、片やこの上なく派手なふたりが、なんの前触れもなく同時に、だ。  その顔は双方真剣そのもので、時が止まったかのように売店が静まり返った。  そしてお互い一瞥もくれることなく目当てのもの、つまり焼きそばパンに手を伸ばし……。 「おらぁ!!」  俺は手に持っていたボールペンを全力で焼きそばパンに突き立てた。  自分でボールペン刺した総菜パンを食うくらいのちっさい責任感というか覚悟くらいはある。食い物を粗末にはしない。 「悪いがコイツは生徒さんに売るわけにはいかなくなっちまった」  手を伸ばしかけた姿勢で目を見開いて俺を見上げるふたりの前からボールペンの突き刺さった焼きそばパンを取り上げると、包装を剥いて大きくひと口齧って飲み込む。 「俺はここを出るぞ」  俺の宣言にふたりは金魚のように口をパクパクさせて絶句している。 「なんだ、なんか言えよオイ。お前らそのためにここに通ってたんじゃないのか?」 「しゃ」 「しゃ」 「しゃ?」 「「しゃべったあああああああああああああああっ!!」」  ふたりの絶叫が校舎中に木霊した。
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