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そして神はほくそ笑む
「用意が整いましてございまするじゃ主様」
薄暗い保健室の中、半分ほどの背丈しかない小柄な老爺が白衣の女に向かって恭しく頭を下げる。
「良きに計らえ」
「しかし主様、もしあやつが『ここを出ない』と言うたときはどうなされたので?」
「ふむ?」
女は事務デスクに頬杖をついたまま小首を傾げる。
「あの脳に人格を与えて人類として自律させることが今回の目的ではなかったかと思うておりましたのじゃ」
「ああ、そのことか」
女が鮮血のような赤い舌をちらつかせてにたりと嗤う。
「まあ“まっさらな脳細胞に情報を書き込み人格として稼働させる”なんぞ前人未踏の作業ゆえ、失敗したところで別にどうということもなかろう」
長い脚をゆったりと組み替えて、老爺のあたまをヒールでつつく。
「小娘どもも本来の目的を忘れて仮想空間に囚われておったしのう。失敗したらしたり顔であやつらに説教でもくれてやっておけばよかったであろうよ。まあ焼きそばパンを鍵に使ったアイデア自体は悪くなかったがのう」
「三大欲求は人間の根源でござりまするからのう。おっと……脳と義体の接続が終わりましてござりまするじゃ」
「後日肉体を培養してやらねばのう。なにしろ現存する唯一意思疎通が可能なXY染色体ゆえ」
「承知致しましてござりまするじゃ」
「くはは、では迎えにゆくとしようか」
女が立ち上がって白衣を翻す。
「より過酷なる生を、より尊厳なき死を求める、愚かにして愛しきものどもを」
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