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断固として譲られない焼きそばパン
あれから数日が過ぎた。彼女は未だに毎日のように“最後の焼きそばパン”を買いに来る。どんだけ最後のひとつが好きなんだ。子供の考えることはわからん。
ともあれ今日も売店は盛況で、学生たちの胃袋を支える総菜パンは着々と消えていく。
もちろん焼きそばパンも例外ではない。というか基本的に一番減りが早い。だから今日もやはり早々に最後のひとつになり、そうして彼女は現れた。
ひとつ結びの三つ編みに規定通りの制服と靴下、紺のフルリムセルフレーム眼鏡の、文学少女という型から直接取り出したような姿の少女。
いつも無表情、ともすればやや気だるげに最後の焼きそばパンを買っていく彼女はいつもの如く、定まった世の摂理であるかのように焼きそばパンに手を伸ばし。
たのだが、実際に最後の焼きそばパンを手にしたのは見覚えの無い、日に焼けたような健康的な小麦色の華奢な手だった。
腰まで届く跳ね放題の、しかし透き通るような蜂蜜にも似た金髪。猫のような大きな瞳が髪と同じ色に輝く少女。
袖を肩口まで捲ったシャツは腰で無造作に括られ素肌を晒し、スカートも膝どころかかなり際どい高さまで巻き上げられてひらひらと視線を挑発する。
その美しい金髪と緻密な計算を感じさせるほどにギリギリまで攻めた制服は包まれた小麦色の肌を言いようもなく際立たせた。
彼女はカウンターに叩きつけるように小銭を置くと「釣りは要らねえ!とっときなぁ!」と満面の笑みで一方的に告げてこちらの反応を待つことなく人ごみに消え去る。
いや、要らねえと言われても困るのだが。なんちゃらマグナムかよ。こういうのはレジ締めで会計が合わなくなるし、かといって帳尻合わせに懐に入れるのもバレたとき具合が悪い。有難迷惑ってやつだ。
しかし商売でやっている俺より困っているやつがそこにいた。残されていた。
いつも最後のひとつの焼きそばパンを買っていく妙な女子生徒は、ぽかんとした顔で先客の消えた方向を見ている。
まあ俺としては釣りは要らんと言い放って消えた女子生徒やそれをぽかんと見送っている他の生徒たちをいちいち気に掛けている暇は無い。客は無限に来るし時間と俺の能力は有限なのだ。
とりあえず、最後の焼きそばパンを買いに来て目の前で掻っさらわれた女子生徒が何も買わずにしょんぼり肩を落として姿を消したことだけはここに残しておこう。
月曜日の出来事だった。
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