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正直なところを言うなら、あのおさげ眼鏡が最後の焼きそばパンを買い損ねるさまを目の当たりにするのはそう悪くない気分だった。
今週の頭に焼きそばパンを買っていくまであの金髪の小麦色略して金麦を見た記憶はまったくないし、なぜわざわざ最後の焼きそばパンを競ってまで買おうとするのかもまったくわからないし、そもそも金麦はあんな派手な生徒ありなのかそこから疑問なんだが、そのなにもかもが俺にとっては些細なことだった。
先日、俺は最後の焼きそばパンを買っていくあのおさげ眼鏡を訝しんで焼きそばパンをひとつ隠して様子をみた。
そのくだらないなりに手堅いと思っていた試みはどういうわけだか運命のいたずらで失敗に終わったのだが、俺はそれをちょっとだけ根に持っていた。
我ながら小さい人間だと思うが、あくまでちょっとだけだ。
とはいえ所詮は子供のやることだし、昨日の表情を見ると少し可哀想な気もしないではなかった。だから焼きそばパンが最後のひとつになったときそれに向かって伸びたのが小麦色の華奢な手だけなのを見て、少しだけ、ほんの少しだけ罪悪感と寂しさを感じた。
おさげ眼鏡はもう来ないような気がして。
焼きそばパンを手渡して釣りの無い小銭を受け取り「よしよし、今食ってやるからな」とかパンに話しかけてる若気の至りと言うにも不審な女生徒を見送って、仕事に集中しようと気を取り直す。
そして結局それは俺の勝手なセンチメンタリズムというか完全に気のせいでしかなく、視線を戻すと目の前にはいつもの見慣れた姿があった。
ひとつ結びの三つ編みに規定通りの制服と靴下、紺のフルリムセルフレーム眼鏡の、文学少女という型から直接取り出したような姿の少女。
無表情、というより目の座った彼女は陳列棚から最後の焼きそばパンを手に取ると「ください」と素っ気なく言って釣りのない小銭をカウンターに置いた。そうして何事もなくいつも通り人だかりの外へと消える。
ん?
ふと視線を滑らせると、先に立ち去ったと思っていた金麦が食べかけの焼きそばパンを銜えたままこちらを見て目を丸くしていた。なんだあの顔。
ともあれ今なにかおかしかったような気がしたんだが、よくわからなかった。
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