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一ヶ月後
ロボタが機能停止してから、一ヶ月。リサイクル施設に持ち込むこともできないまま、俺はロボタを部屋の隅に置き、ときどき埃を拭いてやる日々を送っていた。
おじいさんの話は本当のようで、ロボタは二十年前に製造された旧式アンドロイドだった。メーカーは既に倒産していたし、回帰プログラムを消去されている違法ロボットなので専門店にも修理を依頼できずにいた。
会社のビルの屋上で、昼食のバナナを齧りながら天高い青空を仰ぐ。
ロボタとの同居生活を経て、俺の私生活は少し変わった。毎晩の深酒をやめて、三食きちんと食べるようになった。なるべく風呂に浸かり、休日には布団を干すようになった。そのおかげか、最近は頭も体も妙にすっきりとしている。仕事は相変わらずキツくて嫌になる時もあるが、前よりはだいぶ、へこたれなくなった。
「久瀬国彦くん」
視線を後ろに向けると、美神リーダーが立っていた。何の用だろう、と首を傾げていると、彼女はベンチに座っている俺の横に腰かけて足を組みながら言った。
「最近、何かあった?」
「え?」
「落ち込んでいるようだったから」
意外と人のことをよく見ているのだなと目を瞠る。そんなことないですよとはぐらかそうとしたが、彼女は納得しないだろう。俺は観念して事の次第を話すことにした。もちろん、ロボタの回帰プログラムが消去されていることはうまくぼかして。
彼女は俺の話を聞いた後、ベンチに手をついて俺の方に身を寄せてきた。ふわりと良い匂いがして、俺の心臓がどきりと跳ねた。
「私の兄なら、直せるかもしれない」
「え?」
「ロボット工学者なの」
俺は目を丸くした。
「そう、なんですか。でも、すごく古いロボットなので部品がないかもしれませんし……ご迷惑では」
「兄は守備範囲が広いし、それに、ワケありのロボットを取り扱うのには、ちょっと慣れているの。むしろ喜ぶと思うわよ」
と言って、美神リーダーは不敵に笑んだ。彼女の兄となれば、さぞ変わった……優秀な人物に違いない。
うららかな陽光が、屋上を包み込んでいる。
それはまるでロボタが干してくれた布団のように柔らかく、温かく。
「美神さん」
俺は彼女の方に顔を向け、折り目正しく膝に手をあてた。
「どうかロボタを、助けてやってください」
俺はそう言って、あのおじいさんのように、深々と頭を下げたのだった。
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