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「しまった、約束の時間過ぎている」  わたしは髪を振り乱し地下鉄の駅の階段を駆け上がった。絵美さんが前を歩いていた。長い髪はアンシンメトリーにまとめられ後れ毛がふわり揺れている。 「絵美さん! ごめんなさい。時間に遅れて」  わたしがそう叫ぶと、絵美さんは振り返った。 「大丈夫、間に合うよ」 わたしたちは、教室のあるビルに入った。すると、昂がちょうどエレベーターを待っているところだった。 「あ、昂だ。たーかーしー」  呼びかけに彼は振り向いたが、視線は絵美さんにいった。 「あのほらこの間紹介するっていっていた」  わたしが言いかけると絵美さんは小首をかしげた。 「初対かしら? どこかでお会いしませんでした?」  昂は記憶をたどっている様子。そして何か思い当たったらしい。 「あっ、あのときの」  昂と絵美さんは互いをまじまじ見入る。 「大学祭!」  絵美さんが言うと、昂はうなずいた。そして何かを思い出し声をたてて笑った。 「すでに知り合いだったの」  わたしは素敵な友だちに素敵な友だちを紹介するつもりが肩透かしに合い、その上蚊帳の外なのだった。 「いや、知り合いというか。寝姿を」  わたしはぎょっとして言った。 「えー? な、何それ?」  絵美さんは語気を強めた。 「待って順番に話さないと。由香ちゃんこういうことなのよ。何人かで大学祭に行って、わたしだけお化け屋敷から出ないから友だちが慌てて……そうしたら今名前を知ったところだけどこの昂さんね、一緒に探してくれたの。あのときはどうもありがとう」  絵美さんが頭を下げると、昂は頭を振った。 「いいや特に何もしていないけど、お化け屋敷のなかで昼寝をするなんてびっくりだったよ。すっかり熟睡していたよね」 「あのときはロクにお礼も言えず失礼しました」  ふたりは出会いの一コマを思い浮かべているようだ。わたしはそこにいなかったので、想像するしかない。 「やばすぎるよ、昼日中だからって寝込んじゃうの」  唐突にわたしが口を開くとふたりは一瞬こちらを見るが、またふたりで話を続けた。
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