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 絵美さんと昂はピアノ教室のサロンに着いてからも、ずっとしゃべっていた。わたしが会話に入ろうとしたとき、ひとり目、最初に演奏する小学生の女の子が席を立った。「子犬のワルツ」をゆっくり弾く。好きな曲なのだろう、とても楽しそうだ。お母さんと思しき女性がスマホで動画を撮っている。  次がわたしの番でシューマンの「謝肉祭」から「再会」と「ショパン」それからショパンのワルツ第15番を弾いた。弾き終わり皆の拍手にお辞儀をしつつ、絵美さんと昂が立ち上がって大拍手をしてくれた。  予定外の「再会」を弾いたことと、ふたりの感激ぶりに先生は何かを察したようで、わたしに小首をかしげて見せた。  次の演奏は中学生男子でショパンの「軍隊ポロネーズ」を弾いた。上がってしまったのか途中でつかえたが、弾き終わると本当に満足そうな顔をしていた。そして次は小学生の高学年女子。まだ習って日が浅いという生徒がベートーヴェンの「エリーゼのために」を途中まで弾いて、続きの難しくなるところから先生の音大生の娘にバトンタッチとなった。サロンコンサートではこういうリレーもありだ。  次は父と息子でシューマンの連弾「誕生日の行進」と「熊の踊り」。父のほうが緊張していて息子が心配顔だ。そして、ママ友の連弾は軽やかに、優しいシューベルトのロンドイ長調が続く。  当日のエントリーは時間のある限り可能だった。何か弾かないかと誘ってみたが、絵美さんと昂は今回は聴くだけにすると言い、まったく気がないのだった。
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