チュートリアル

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チュートリアル

砕烈覇殺(さいれっぱさつ)学園とかいう何かを確実に間違えた名前の学園に所属する俺は、山奥であり何故かホモとかバイが8割を占めているこの全寮制男子校において、貴重なノンケ成分を保ち続けていた。 「こら、机に足をのせんなって」 「チッ……んだよカイチョウサマ。草壁の真似かよ」 「生徒会長として当然の注意だ。それに後輩だろお前。草壁先輩と呼びなさい」 ――何故か、生徒会会長として。 ついでに言うと目の前の男は皇。このままいくと次期生徒会長になりそうなので、今から生徒会会長としての心得を伝授している……のだが…… 「それで、教師が……特にハゲ教頭が用事があると言ってきたときは、」 「ボコる?」 「馬鹿! "すみません、今から俺家に連絡しないといけなくて!"って適当に理由をつけて逃げるんだよ!」 うまくいかねぇ~~~!! 皇 瑞穂(すめらぎ みずほ)。この男子校に初等部……幼稚園児の頃から所属しているらしく、その頃から天才児の称号をほしいままにしていたそうだ。 現在に至るまで赤点はおろか、首席の座から降りたことがないらしい。 コイツの家の皇グループは世界的に有名であり、それ目当てで近づくやからも多い。 現在引き継ぎ教育をしている俺も、あわよくばコイツと知り合いというステータスで内定決まんないかなと近付いた訳だが…… (だ、駄目だコイツ……早くなんとかしないと……!) 敬語も使えないし俺様過ぎる。カリスマ性で何とかなりそうだが、そうも行かない人間だっているのだ。周りに気に入られておいて損はない。 「あのなぁ、皇」 「瑞穂」 「名前呼びか? やだね! 俺の信頼を一定数上げてから挑戦しな!」 「何様だお前」 「生徒の中で一番偉い生徒会会長様です~!」 おっと脱線した。 「皇、生徒会会長になるんだったら、上への媚び方もよぉく覚えておけ。正直同輩と後輩には媚びなくてもいい……が、人として優しくしておきなさい。 会長となる人間は、この学園のため、尽力しなければならないんだから」 「……何でそんなこと、俺が」 「は? じゃあいいよ。会長になるな。こんなことにすら引っ掛かってるようなら任せられん」 俺はこの学校が好きだった。同輩はなんだかんだ良い奴等ばかりだし、後輩は……問題児ばかりだが、可愛いもんである。 より良くできないのなら、例えそれが世界的に有名企業のお坊っちゃんであろうと向いていない。 と、ごくごく普通の思考回路から下した決断である。余談だがこれはわりと前から下していた。 え? なら何で引き継ぎをやめないかって? 「は!? 何でそうなんだよクソジジイ!」 「ジジイじゃありませーん! いや何でって、単純に向いてないし」 「……っ! やればいーんだろやれば!」 と、何故かやる気になるからである。突き放されたらやる気出すってなんだろうこいつ。Mかなぁ。 さて、俺としてもやる気を出したコイツに引き継ぎしたいものだが…… コンコン。教室の戸が叩かれる。ただでさえ山奥のこの学校の、離れにちんまりとある教室。俺は好んでそこを使っていた。 「どうぞー」 戸が開かれると、わらわらと人が入ってくる 「お邪魔しまーっす!」 「「あ、律くんだ~!」」 「……」 「失礼いたします」 「あっ、律くんと瑞穂! やほほー!」 「律、みんなつれてきたよ」 上から、二年・次期席務の筒井、二年・次期会計の鈴野 風馬(ふうま)冬馬(とうま)、二年・次期書記の三月(みつき)、二年・次期副会長の佐々波、一年・風紀委員の有栖川、三年・副会長の矢口だ。 どやどやと入ってきた連中に呆れながら、矢口にまずは礼を言う。矢口は、金髪青目とピアスの穴、着崩した制服でチャラく見えるが、実は国外の生まれで地毛である。 制服を着崩してるのはだらしがないからだ。 ピアスは……お洒落のつもりらしいが、実は穴が開けられず、イヤリングで済ませてるものだ。当然風紀にも申請は提出済み。受理されている 「矢口、とうとうネクタイをしめることを諦めたのか?」 「んーん。なくした!」 「えぇ~……お前今季に入って何回目よそれ」 「えっと~、ベストは二回、ジャケットは最近のも入れて四回、ネクタイは~……ねーきみわかる?」 「十五回目だったかと、矢口先輩」 …… ……悪いやつではないのだ。悪い奴では。 矢口の質問に答えたのは佐々波。いつもにこにこしていて、しっかりしている。矢口がほやほやとしている分それが際立つ。 濡れ羽色の髪に、眼鏡の奥にキラリと光る野望と知性。 ……うーん、相変わらずこの間生徒会メンツで鬼畜眼鏡ごっこしたときより鬼畜眼鏡! 「やー、溝口くんは相変わらず鬼畜眼鏡だね~」 「溝口誰だ?? 佐々波くんだろ。ごめんな佐々波くん、こいつ人の名前覚えないんだ」 「……気にしてませんよ」 い、いっ、いったー!!! 俺が言おうと思いつつでもこれパワハラだよなって思って言わなかった事をあっさり言った~~!! 鬼畜眼鏡だよな~俺もそう見える~! 気にしてませんよって言ってるけど気にしてるやつじゃんこれ~~! ごめんね! 「……オイジジイ」 「皇、みんな来たから個人レッスンは切り上げだ。ほらみんな席につけ!」 「えー! りっちゃんとお話しした~い」 「先輩をつけろ、敬語を使え筒井」 「ぐふぅっ」 しなだれかかってきたのが筒井。王族クラスであり、正真正銘のチャラ男だ。金の髪と瞳をしていて、声も甘く軽い。女好きだがバイらしく、よくチワワたちを侍らしている。 さっさと地獄突きを見舞わせ、ぐったりとした筒井を席に落とす 「双子~! もたもたするんじゃない」 「「えー!」」 「筒井と同じような目に会いたくなければ、だがな」 「あっはい」「ごめんなさい」 「良い子だ」 見分けのつかない……もはや見分けをつけることを諦め始めた双子を呼ぶ。少し脅せば、思いのほか素直にうなずいてくれた。素直で良い。 頭を撫でればにへらと愛好を崩す。何だかんだと後輩は可愛いものだ 「三月、佐々波くん、有栖川ちゃん……は、席についているな。よしよし偉い偉い」 「……はい」 「ありがとうございます」 「もー! 高校生にもなってやめてよね!」 大柄だがわんこのようで口下手な茶色の頭と、きれいに整えられた黒髪と、ふわふわのピンクの髪を撫でれば、一番可愛がられるのを喜びそうな有栖川ちゃんから反応が出る。 この、この後輩の思春期感があまりにも可愛いのだ。 「よしよしよしよし見た目に似合わず一番思春期してる有栖川ちゃん可愛いなぁ!! 先輩がお菓子をやろう!!」 「ぎゃーっ! すり寄ってこないでーっ! ヘンタイ!」 「律! いい加減にやめなさい!」 「ヤッヤグチィ……」 「矢口せんぱぁい……!」 矢口にはたかれた。屈辱…… とにかく、気を取り直して。 俺は黒板に向かう。途中で皇からの視線を感じたが、無視だ無視。どうせまた文句つけられるだけだろ。 「……よし、じゃあみんな、講義を始めような」 講義終わり、鈴木が退出した後のこと。 双子がどちらからともなく、最前列で講義を受けていた皇に近付いた。いつも授業で寝ているかサボっているかしているはずの皇は、態度は悪いがきちんと授業を聞いていたみたいだ。 ……まぁ、そんなアピールも鈴木の前では無意味となるが。 別に鈴木が皇に冷たいわけではない。有栖川にはあれだが、鈴木は基本平等だ でも…… 「皇~、自分が真面目にしてるのが珍しいって~」「会長に言わないと意味無いと思うよ?」 「……余計なお世話だ」 そう、皇は鈴木にのみ優等生の皮を被っていた。 「へへ、俺頭撫でられた」 「なーに風馬。ボクだってなでられてたからねー!」 「……」←唯一撫でられなかった皇 「佐々波とか優等生だからって、いっつも可愛がられてるよね。ねー、風馬」 「最近は俺等もおとなしくしてるのにな、冬馬」 「「ねー」」 「……」←一番問題視されている皇 それぞれの素が出ながらも、仲良くハモる双子とどんどん押し黙る皇。回りはそんな三人をはらはらしながら…… 「ふふ、瑞穂が追い詰められているのは中々愉快ですね(佐々波)」 「……すなおじゃ、ない……(三月)」 「りっちゃん、オレにすら良い子にしてたら頭撫でたりお菓子くれたりするのにね~……(筒井)」 「皇を一番問題児だと思ってるんじゃない? ほんとは会長引き継ぎにも欠かさず来てる模範生なのに……かわいそう……(有栖川)」 もとい、ワクワクしながら眺めていた。基本的に皆さん悪友関係のため、わりと面白ければ相手が誰であろうと見捨てる性質を持っている。 そんな、渦中の人物である皇と言えば 「頭撫でてほしいってのも言い出せてないし……」「そんなにうぶだったっけ?」 「……うるせぇっ! もうほんと、黙っててくれ!!」 かわいそうなくらい虐められていた
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