体育祭

32/63
前へ
/140ページ
次へ
所変わって三年・庶民テント。 今日も元気(具体的に言えば裏切り者の登場で元気になった)な三年生庶民クラスこと、家柄平凡顔面平凡出会いもなければ彼女もいない男子高校生により粛々とサバトが執り行われていた。 「だーかーらーっ! 誤解! だ! つってんだろ!」 処刑対象は長年学校を支え続けた生徒会長こと鈴木律である。大縄の縄により滞り無く捕縛された対象は無罪を主張していた。びったびったと暴れる彼はまさに地を這う虫のよう。 ──っていや、処刑されてたまるか!! 俺は格好も捨てて必死でのたうち回った。誤解を解いてもらおうとつぐみちゃんを探したがとっくに引き離されているしお嬢様にこんなところ見せられるかとでも言いたげに遠くで優雅なランチタイムエリアを作っていた。流石男子校の童貞、必死である──じゃなくて! 「誤解やろうが何やろうが、あんな可愛いお嬢ちゃんとフラグ立てておいておれらの仲間ヅラしてたきさんに情状酌量の余地はないわ、ボケナスが」 「口悪! 騎馬戦だとあんな頼ってきたのに!」 「それはそれ、これはこれやけんな」 そうクソカス宣言をし、裁判長である皇親衛隊隊長・千賀が静かに罪状を読み上げる。どうでも良いけど法廷としての基盤ぐっちゃぐちゃだなコイツら! 「え〜……被告人・乙は──あーめんどいな。とりあえず鈴木律は死刑で」 「おっっっまえ!」 矢口がそっと俺を持ち上げる。やめろお前どこに連れていくつもりだ。というかお前なんか今まで散々裏切らないムーヴかましといてそんなことあるか──いやそんなことあるコイツ意外と俺に厳しいし── やめろやめろと騒げば、意外と狂乱騒ぎが好きな正也が手を叩いて爆笑していた。許されない。 深山に関していえば絶対知れば止めるのでつぐみちゃんと同じ所で談笑しているらしい。 すごい人間とか食べそうな顔してる深山だが、子供には好かれる。つぐみちゃんも基本子供が好きなものは好きなので意外と意気投合してるかもな…… ──そういう狂乱騒ぎは、一人の幼い子が乱入してきたことで沈静化した。 「ににー!」 「えっなんこの子!」 最初に千賀の足元に飛びつき──プラチナブロンドの髪をしたちっちゃいのは顔を上げて、じわりと瞳を潤ませた。 焦ったのは千賀である。ネクストリツズヒントだが、ヤツは子供が好きである。 「アッアワーッ焦るよなぁごめんなぁににやないもんな!! り、りりりつ!」 でも子供には慣れていない。 うじゅ……と泣き始める子供に、焦り散らかした千賀が助けを求めてくる。ちなみに男子高校生は皆幼い子供という概念にあらゆる意味で弱いので全員慌てて取り囲み飴を上げようとしたり昼食のウインナーをあげようとしたりしている。更に補足だが、泣いている幼い子を大勢で取り囲むと当然パニックになるので普通に泣く。馬鹿どもが…… 「リピートアフターミーごめんなさい」 「ごめんなさい!」 「学食のステーキ奢ります」 「学食のステーキ奢ります!!」 「よろしい下ろせ矢口」 はぁ〜い♪とそっと俺を地面に下ろし、拘束を外した矢口。全く、どこまで予想がついてたんだか……。 立ち上がった俺を見て、こどもはパッと顔を輝かせた。 「にに〜!」 「おーおーつむたん。元気かぁ〜?」 「うん、つむぎ、げんきだよ!」 「そっかそっか」 ぽてててて……とちいこい足が動き、どんっと衝撃。小さいのを抱きしめると、持ち上げる。 「お、おまっ……もしかして……!!」 慌てたようにこちらを見上げる千賀ににっこり微笑む。いやはや、この世は狭いもんだな? 「ど〜も〜。この子の『にに』こと鈴木律でぇ〜っす」 「……はぁぁぁぁぁぁぁぁああ!?!?」 千賀の叫び声が響き渡る。勝利宣言で爆笑していると、呆けているモブどもの後ろから皇が走って──きて──ん? 「つむぎ、一体どこに──律!?」 「あぁっ! 律、もうっ、探したわよ〜!」 「っげぇ……」 「? どうし……た、んですか。律と知り合いか何かな……ですか?」 皇の後ろについて走ってくるスーツの女性。うげっと顔を顰めた俺を見て皇が不思議そうに首を傾げ、彼女を見る。 他の奴らは彼女に親しげに手を振っていて、俺の近況などを報告していた。そうだろうなお前らは会ったことあるだろうな。 あぁくそ、あの地味さは……やっぱり…… 「母さん……」 「っハァ!?!?」 「もう、律ったら全然学校のこと話してくれないもの、お友達はできた?」 「ににー、おなかすいたー」 「えっ!?!? ににっておま、そいつ雪代じゃ──」 哀れなほどに困惑する皇。 つむたんはマイペースに俺にご飯をねだるし、そのつむたんの為に昼食のウインナーを差し出そうとする輩はいるし、千賀は急に走ってきた最推しに気絶してるし母さんは気にしてないし── 「あらっ? つむぎ、もう律くんと会っちゃったのかしら?」 「ねねー!」 最悪のタイミングでつぐみちゃんが戻ってくる。 殺気立つ生徒ども、混乱が深くなる皇、えっやだぁつぐみちゃんとこの子だったの!? などと言い放つ母さん。 …………なんというか、カオスだ。 「……とりあえず、情報共有するか……」 俺の言葉に、ひとまず全員頷いた。
/140ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1733人が本棚に入れています
本棚に追加