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「まず」
と指し示したのは、つぐみちゃん。
つむたんを抱きしめ、瞳を可愛らしくぱちくりと瞬かせている。相変わらず俺のジャージを着ていて、テント内の一番良い席に座っているのでつば広帽子は脱いでもらった。
「つぐみちゃんこと明宮つぐみ。旧姓は雪代つぐみで、俺の幼馴染。元々施設の子だったんだけど、中学生になったあたりで雪代家が実家だと判明し、引き取られて──」
「明宮家に嫁いだのだわ! ごめんなさいね、驚かせてしまって!」
「そゆこと。婚約者ってのは、小さい頃したごっこ遊びのことだよ」
15で姉やは嫁に行き、というわけでもないが──彼女は雪代家の地盤を固める為、意志も何もなく明宮家に売られた形となる。
矢口はなるほど、と頷く。
「もしかして明み──つぐみさん、小学校で中遊びしてた人〜?」
「あら、気を遣ってくれたのかしら? どうもありがとう! 幼い頃は体が弱くて……図書館でよく本を読んでいたわ!」
「やっぱり〜! おれ、外でよく遊んでたからさぁ」
「あら、そうなのっ? ヒーローごっことか?」
「あ〜、律が一時期ちょ〜ハマってた!」
「うふふ!」
そういうことである。逆に渡川(寝ている)とはよく話していた印象があって──俺はそんなつぐみちゃんに近づきたくて、本を読むようになったんだっけな。
中学で嫁に行ってしまったが為に、幼馴染である中で矢口とは会えなかったんだろう。
そこまで静かに聞いていた皇はおず、と手を挙げる。はい皇くん。てかお前敬語使えたんだな、めっちゃ偉いな。後で褒めよう……
「雪代家には、子供は一人しかいない筈だ。その子供は『詩乃』だろ」
「まぁ、そうね! けれど私も『雪代』じゃないわ!」
「あんたは──事情が違う、でしょう……」
「うふふ!」
にぱにぱと悪戯好きな天使のように笑うつぐみちゃんと、あまりの明るさに怖気付く皇。うーん強い。
ぽんぽんと軽く皇を撫で、あんまり苛めんでやってくれとひらひら手を振った。
「『つむぎ』は雪代家の子だよ。妾が産んだ子だからと捨てられかけたのを、つぐみちゃんが拾ったんだ」
「今は明宮の──私の旦那様との子だって偽って育てているのだわ! 旦那様は側室が多い方だし、側室のひとりに興味なんてないから、けっこう安泰なのよ?」
「ってことだ」
母さんがつぐみちゃんを知っていてつむぎを知らなかったのも、明宮でつぐみちゃんが秘匿されてきていたからである。──当たり前だ。中学生の少女を側室になんて、いろんな人権的なのを侵害してるからな。
「……で、母さん?」
「なぁに?」
「何で皇にたんこぶできてるわけ?」
「わからないわよぅ。つむぎちゃんが名乗った瞬間、急に柱に頭をぶつけ始めて──」
「何してんの??」
何してんの??
皇のなぜだか赤くなった額を撫でつつ(本人は嫌がっている)、母さんたちの事情も聞くと──どうやらこちらはつむたんの『にに』を探してくれていたらしい。
ちなみにつむたんと俺が知り合いなのは、つぐみちゃん会いたさに明宮に潜入したことがあるからである。むしろつむたんは詩乃のことを知らない。
夏の風が、日陰になったテント内を通り抜ける。
「……色々と出てきて混乱していると思うが」
「うん」
躊躇いなく頷いたのは矢口だ。お前は理解してろよ一番知ってんだから。
まぁ、いいや。
とりあえず。
「体育祭とは関係ないんで、とりあえずテキトーに把握していてくれ」
それで良いのか────
そう言いたげな一同を無視し、昼休みも残り少なになったし、次の競技に参加する為腰を上げた。
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