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「「律く〜んっ!」」
「どブワァッ」
「り、りっちゃんセンパイ!!!」
会場に入った瞬間双子に飛びつかれ、哀れ基本的にただの男子高校生な俺は重量に耐えきれず背中から倒れた。べしゃっとなんか可愛い感じに倒れているが、めちゃくちゃ痛い。重い。つらい。
サラッと避けた筒井が予想外かのように頭を動かす。普段なら俺避けてたもんな。海鮮に心が囚われてたんだよ察しろ。
「律くん律くん律くんっ! 寂しかったぁ〜っどこ行ってたの?」
「どうしたの青ざめて! 大丈夫っ?」
「…………鈴野双子…………」
二番目に発言した方が心配したふりをして俺の首を絞めようとしてくる。こいつはもう片方が俺に取られたのが嫌らしく、毎回暗殺未遂をしてくるのだ。
ため息をついた。
ガッ! とそっくり反転したようにこちらを見つめてくる二人の後頭部を鷲掴みにする。柔らかい髪の感触と頭の感触を確認し、力を調節しながら──
「急に飛びつくな!! 危ないだろうが!! あと多分風馬の方、俺の首をナチュラルに締めるな!」
「「みぎゅっ」」
「よ、容赦ーーッッ!!」
ガンッ! と互いの額と額を強かに打ち合わせ、昏倒させた。命に別状はない。こういうお仕置き(物理)に慣れている人間が会得しうる絶妙な手加減を会得しているからだ。
良い子は真似するなよ!
ぱんぱんと手をはたきながら立ち上がり、双子を壁際に寝かせる。すぐ目覚めるだろう。
室内はシャンデリアの照らすパーティホールといった様相で、しっかりテラスもあるらしい。ガラス張りの窓の外、茱萸木くんと草壁が談笑していた。
各々のテーブルで好きなように過ごしている役員を見渡しながら、感嘆の息を吐く。
「おぉ……凄い、豪華だな……」
「うん、ちゃんとしてるよね……ってか双子は放置でいいの?」
「アイツら、冬馬の方も風馬に俺が殺されたら殺されたで双子だけのものになっていいかなーとか思ってるから……たまに灸を据えておかないとまずい」
「ヒェ〜! 二人とも物騒じゃん」
「双子だからな……」
でもこの間筒井が引っ掛けた女せ……あれ、男の娘だったっけ? に似たような子がいた気がする。刃傷沙汰になりかけて、戸川が結局なんとかしたやつ。
というか月一でこいつは似たようなのを引っ掛けてくるな……懲りてほしい……
「あれ? 律くんじゃん! おはよ〜!」
「有栖川ちゃ〜ん! おはよ〜!」
「いや対応の差! りっちゃんセンパイ、ほんとにかりんのこと好きだよね〜」
バイキング形式らしく、入り口近くの小テーブルについて立っていた有栖川ちゃんが手を振る。それに合わせてパッと手を振れば、呆れたような筒井の声。
パーティドレスとか似合うと思うのに、全員学校ジャージなのが惜しいところだ。修学旅行じゃんね。
「かりんの周りに人がいないの珍しいね? また人嫌いでもしたの?」
「いや、さっきまで双子がいただけ……って桜! また好き嫌いして! おっきくなれないよ!」
「エーンもう良いよーッ! おっきくなったもん!」
幼馴染らしい二人がわちゃわちゃし始める。確か有栖川ちゃんは筒井家と長く交流している明宮派だったはずだ。嫌いらしく、野菜を避けて並べられた魚をとる筒井の皿に、ズボォッと躊躇いなくほうれん草が乗せられていく。俺もネギ嫌いなので気持ちはわかるぞ筒井、大変だな……
「仲良いなぁお前たち。筒井は泣いてるけど……」
「んもー桜はすぐ泣く!」
「かりんはいっつも僕をいじめる!」
「はいはい。ほら筒井、一口だけ頑張ろう?」
「えぇ〜……野菜なんて、サプリで充分だし……」
「そうか……ここあたりサプリないけどな。ところで全然違う話なんだが、壊血病って知ってるか?」
「食べまぁす!」
壊血病はビタミンCが長く欠乏した場合に起こる病気である。別にこんな短期の船旅でなる訳ではないが、ビタミンが取れなければそういうやばい病気にもかかりやすくなる。軽くつまめそうな野菜をひょいひょいと皿に入れてやる。
「有栖川ちゃんも、嫌がる子にあまり無理はさせないようにな?」
「嫌がらないようにすればいいんだね?」
「ウン……」
嬉々として拳を握った彼と泣きながらガチの抵抗はできない筒井。多分ここの力関係は変わんないんだろうなぁと思いながらテーブルを離れた。
(とはいえ、筒井も本当に嫌なら避けるんだよなぁ……)
そういうやつだ。有栖川ちゃんも、本当に嫌ならここまで絡んでこない。幼馴染というのは複雑怪奇である。
「あれ、りっちゃん?」
「詩乃?」
と、テーブル間をウロチョロしていたらしい詩乃が、手に持った皿のサーモンをつつきながら声を掛けてくる。皇は、と聞くとトイレらしい。
じゃあ草壁が見てるはずだ、と問えば、無言で端の方のテーブルをフォークでさされた。
「あ、あの……そ、聡太? これお前好きだったろ? 俺取ってきたから、」
「結構です」
「ふぇえ……」
そこにはヘタレがいた。
いや、分かってる。あれは草壁である。そしてその草壁が持ってきたものを隙のない笑顔で断っているのは佐々波くんだ。今回矢口を連れてこれなかったので、ちょっと不貞腐れている。
しかしその、あまりにも情けない姿に頭を押さえた。
脂の乗ったサーモンをもぐもぐしながら、詩乃はかわいらしく首を傾げる。
「かかわりたくない。なさけないから」
それ本人に言ってやるなよ、泣いちゃうからな……
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