カジノ編

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「よ、佐々波くん。うちのヘタレをいじめるのも程々にな」 「生徒会長。それに詩乃くんも。こんばんは」 「はいこんばんは」 「こんばんは」 いつも通りの笑顔で俺たちを迎える佐々波くん。隣にいる捨てられた仔犬みたいな目をした男のことは無視である。いいけど。 体育祭の時あんなに危険視されていた詩乃も、あのドローン中継で親しみやすくなったのかなんなのか、ナチュラルに受け入れられていた。世話焼き気質の佐々波くんからこれ貴方好きそうですよと魚をもらっている。 「わぁい。ありがと、そうくん。これお返し、そうくん好きそう」 「ありがとうございます。あちらのテーブルのでしょうか? 気になっていたので助かります」 「でしょー? 前闇鍋やった時言ってたもん」 「あぁあの、最後にカレーでなんとかした……」 「うん。みぃくんは強い」 「その戦闘力、瑞穂というよりヴァーモンドカレーでは?」 知らないところで楽しそうなことをしている。 というか、皇が休みの日急にカレールー取りに来たのはそういうことだったのか。草壁と目を合わせれば、参加したかったと顔に書いてあった。三年の介入は望まれてないんだ、座ってろ。 「草鞋入れたの誰だっけ?」 「双子です。あとミントだと思ってましたがあれやっぱ歯磨き粉ですよね?」 「なんでチョコと一緒に入れたんだろうね」 「チョコは確か筒井くん……歯磨き粉は有栖川くんですね。どちらの意味も打ち消しあっていて、まるでいつもの彼らのようです」 「ひどい……」 ひどい。 しかし二年生、自分が食べるものなのになかなかにわんぱくなものを入れてるな。ぼんやりといつもの三年が浮かんでくるあたり頭が痛い……。 同じことを思ったのか、草壁がぼそっと「段々今の三年に近づいていくなあいつら……」と口に出した。わかるわかる。あの後先考えずその場の楽しみに身を委ねて最終的に後悔するところな。悪い所じゃん。 お互いの好きなものを交換しつつ身内話に花を咲かせている二人を横目に、俺は草壁の肩をガシッと組んだ。 「よしっ、俺らは他んとこ回ろうぜ」 「は? いや、俺は聡太と──ぷぎゅっ」 「そうかそうかお前も俺と回りたいかーいやー素直に了承してくれて助かったよー」 そのまま駄々をこねる草壁の意識をキュッと落とし、気絶するヤツを掴んで引き摺っていく。チラッとこちらを見た詩乃がうわ……みたいな顔をしていたがすぐ会話に戻る。俺たちに興味なさすぎだろ。 「まったく。三年の介入は望まれてないっつっただろ」 引き摺りながらぼやくも、返答はない。背中のジャージを俺が持って歩いているので、ぐったり手の裾やら靴やらをカーペットに擦れさせながら草壁は眠っている。 俺も人のことは言えないが、草壁は過保護だ。 草壁家というのは名家の中でも歴史が長く格が高い家で、そんな家の才能ある長子として産まれた彼は、それはそれは慈しんで育てられた。 しかし、その慈しみ方は周りの犠牲を問わないもの。 影武者として佐々波家の嫡男を利用し、引き立て役として雪代の子供とつるませる。 草壁がその異常性に気付いた頃には、とっくに何もかもが終わっていたのだ。 哀れだとは思う。草壁は元々情の深いやつだ。佐々波くんとも、昔は純粋に仲が良かったという。 ただそれは昔の話で、決して今ではないのだ。 「おぉーい、茱萸木くん」 「鈴木先輩……と、そちらは……」 「草壁か!? 何だその状況!」 「ちょっと草壁が取り戻せないものに意味を見出してな……」 「ポル◯グラフィティみたいなこと言うじゃないか」 端の方で話している茱萸木くんと正也に声を掛ける。珍しい組み合わせだが、確か茱萸木くんも本が好きだったはずだ。と言うか正也ポルノ聴くんだ。 気絶した草壁を茱萸木くんに引き渡せば、戸惑いながらも受け取られる。 「部屋で寝かせておいてやってくれよ、少し疲れたみたいだし」 「承知しました。それでは、また」 「おう!」 「おー」 正也が元気に返し、茱萸木くんは草壁を抱えて持っていく。途中で入ってきた皇がギョッとして周囲を見渡していた。別に刺客とかではないからな。 いやーしかし、渡した俺も俺だけど。 「しっかり信じる茱萸木くんも茱萸木くんで、あ〜変な奴だな〜って思う」 「お前が騙したんだぞ! 分かるけどなっ!」
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