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それで? と正也が俺の皿にネギを乗せながら微笑む。怪しげな微笑みで騙されてるけどテメーネギを乗せるな皿に。
「甘辛く味つけられた肉にちょっと乗せられてるだけだろ! そのくらい食べろ! おっきくなれないぞ!」
「立場は学校で一番おっきくなったので良いんですぅ〜大体これはちょっとじゃねぇ! ネギが嫌いな奴は細かく切られたのがパラパラふりかけられてるやつでもネギ判定すんだよ!!」
「俺の皿に乗せるんじゃないネギだけを!」
ひょいひょいと正也の皿にネギをよって置く。ちなみにこうやって貰った食べ物を選り分けるのは礼儀的に良くないことなので良い子のみんなはやらないように。
綺麗にネギがなくなった肉のみ口に入れ、甘辛のタレを味わう。じゅわっと噛んだ瞬間溢れてくる旨味に舌鼓を打った。ちょっとネギの味がするけどまぁ……まぁ仕方ないか……
「はぁ……それで?」
「ん?」
「ん? じゃない。俺達は何を食べないべきなんだ?」
「…………おぉ」
バレたか。
少し驚いて、目を瞬かせる。正也は分かるだろ、とため息をついた。そういえば三年生が見当たらない。
実は、パーティに出す料理の幾つかに無味無臭の睡眠薬を盛っている。理由は単純で、これからすることを知られたくないからだ。
「草壁は察せなくて普通に中央のも食ってたけどな! 三年は一部事前に食べたことにしてある! まぁ、ある程度勘の良い奴を選り分けられただろう!」
「草壁……!」
体育祭では裏で人払いしたり鬼ごっこ区間の見回りを徹底させたりと、かなり細かくサポートしていたはずだが。馬鹿だなあいつ…………
正也は何をするのか少し察して居るらしく、仕方ないなぁというふうに笑っていた。
「中央の海鮮、ドリンクバー。今配られているジュースは自分の分のみ飲んでくれ」
「了解したぞ! 犯罪はしないだろうな!」
この旅行が企画された理由を知らない一、二年生は疑う事なく渡されたジュースやメインディッシュの海鮮を食べていく。おそらく勘付いているだろう筒井も、チラリとこちらを見た後ジュースを飲み下す。
それを横目で確認し、俺は正也に一度別れを告げる。
「じゃあ後でな」
「おう!」
次は、あの人から詳しく話を聞かないとな……。
算段をつけながら自然に歩く。遅効性の睡眠薬だ、眠たくなるのが少し早くなるくらいの。そして眠れば朝まで起きないくらいの。
だから──
ドンッ!
「のわっ」
「ひっ!!」
そんなことを考えながら自然になるよう会場を出て、廊下を足早に歩いていると、何かにぶつかりよろめいた。踏ん張って転ぶのは耐えたけども。
「すみません、少し考え事をしていて……怪我はありませんか?」
スタッフの格好をした男に手を差し伸べる。俺と同じくらいか、少し低いくらいの身長。ショッキングピンクのメッシュに黒髪で、こちらを見上げた吊り目はこれまたピンク。
「見た目すごいですね」
「そのまま言われた!?」
いや言うだろこれは。助け起こした男はよく言われます、とため息をつく。
「目の色が珍しいんですよね。よく言われ──」
「いや別にそこは」
「ベツニソコハ!?!?」
「俺の友達目の色銀だし」
「王道学園の受け君じゃないですかヤダー何年生ですかそのお友達もしかしてあのモジャくんのことです!?」
「!?」
モジャくんって、正也のことか? いつの間に素顔が露出したんだ……? 本人も別に隠していると言うわけではないし、人の視線が嫌なだけだが──奴の素顔を知る人間はなかなかいない。
学園の奴らも、俺が『マサヤ』と呼ぶ人間は二人いると思っている。よく美人な方のマサヤくん紹介しろって言われるしな。
「……そうですよ。正也は三年生ですが──俺たちのことを探ってるんですか?」
「アッ……! 三年ならちょっと違、いやその、探ってなんて!」
「別に良いですが、もしそれ以外で知っている情報があるのなら──」
すん、と鼻を鳴らす。先ほどぶつかった時に香ってきた香水の匂い、それ以外にかすかに粉ミルクの匂い、それとこれはシロップか? 風邪薬か何かだろうな。
手元はあかぎれがひどく、そこに絆創膏が貼ってある。くちゃくちゃの貼り方で女子人気の高いキャラクターのもの。
「あんた、幼い妹がいますよね。それも二人。一人は風邪をひいていて、一人は乳幼児。一人で育てているんですか。最近両親が失踪したから」
「え──」
男が怯えたような表情を見せる。よし、ビンゴだな。子供二人──特に一人は元気盛りだろう──を育てているには体幹が弱く、年齢は若い。
そしてこの辺りで働いているスタッフとなれば、境遇は限られてくる。
「他界じゃなくて、失踪ですか。怖いですねぇ」
「ひっ……」
にこやかに首を傾げれば、男は後ずさった。やっぱりな。その隙を見て足を引っ掛け、転んだ男の手から録音機を抜き取る。ぶつかった時付けられた発信機も自分の首元から抜き、壊した。
「なぁあんた、これで何するつもりだったんだ?」
「あ、や、やめ──」
かちり、と再生ボタンを押した。
正直──押さなきゃよかったとは思った。
『律へ。やっほ〜最近律にとーまって呼ばれなくて寂しい当真くんだよ〜』
場違いに和やかな声が、誰もいない廊下に響いた。
「…………矢口?」
『今頃律、そのチバくん? だっけ? 疑って綺麗に脅してると思うんだよね〜』
「あ、ちさとです」
「あ、うん。ごめんな矢口が……」
周りに人がいないか確認し、ため息をつく。こいつはこれが変なところで作動したらどうするつもりだったんだ?
不審者もといチサトくんがペタンと座り込んで俺を見上げてくる。そんな困惑した顔されても俺も困惑してるんだよな……
『その子はね〜矢口家の残党で、いちお〜スパイだよ〜。身体能力は高いから、うまく使ってねぇ〜』
「は? 待て待て待て矢口家の残党だと? 不穏分子は壊滅したはずだが」
『というか〜、家の人の隠し子見つけてスカウトしちゃった☆』
「人権を無視するんじゃない矢口ィ……!!」
まぁ、こいつも一応色々やって儲けてるので給料は払ってるんだろうが。というか手の内見せて良いのかお前。それ伏兵っていうんだぞ。
……いや、まぁ良いんだろうなぁ。
なぜかホッとした顔をしたチサトくんに謝ろうと、顔を上げた瞬間。
『じゃあ次からはセンリくんのリアルBLセレクション流してくよ〜。元々この録音機に入ってた内容だよぉ〜』
「イヤァァァァァァアアア!!!」
それはそれは綺麗な悲鳴がこだました。
あぁ、なるほど……腐男子だったのか……。
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