青い一日

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   私の宝物。  それは、昔パパからもらった大事な、大事な星の砂。    星の砂は鮮やかなコバルトブルーに染められていて、うっとりする美しさだ。    小さな青色と白のチェック柄のリボンを瓶のくびれ部分に巻き付けて、薄い空色の高さ7㎝程のガラス製の小瓶に詰められ、コルクのフタでしっかりと閉められている。  パパは昔、まだ小さかった私に言った。  「あおい、これはハワイっていう日本よりも南にある島の砂なんだよ。何か悩み事があったらこの青い砂にそっと話してごらん?きっとハワイの砂があおいの悩み事なんてさらって、海に流していってしまうよ。」  「えー、本当?ヤッター、じゃあ、あおい大きくなったらパパのお嫁さんになる!」  「ははは。お願いごとじゃなくて、あおいが嫌だなって思う事をそっと砂に話すんだよ。」とパパは言った。    ママは「パパ、あおいにまだ悩み事なんてないわよ。まだ4歳なのに。」と、言っていた。  私は悩み事とお願い事の区別もついていないぐらい小さかった。    パパが言ってる事を理解したのはそれから数年経ってからだったと思う。  当時、私は星の砂の正体を知りたかった。  どんな感触をしているんだろう?どうして青色なんだろう?と、思ってよくしっかりと閉められたコルクをこじ開けようとしていた。  爪や歯を使ってカリカリとフタを開けようとする私を見て    「こら、あおい。瓶を開けたらダメだよ。砂がこぼれたら大変なことになるぞ。」とパパは言った。  それから、私はフタが取れたら砂の効力が無くなるんだ、と思ってフタを無理してこじ開けるのをやめた。 ----------------------------------    月日が流れて、航海士だったパパが船の事故で亡くなったのは私がまだ10歳の頃。    私もママも、悲しくて悲しくて涙が枯れるほど一緒に泣いていた。6歳年下の弟の(みなと)だけはまだ良く理解しきれておらず葬儀場でも、パパにもらった戦艦の模型でひたすら遊んでいた。  私は1か月以上学校にも行けなかったし、ご飯も食べたくなかったし、何もしたくなかった。  ママはそんな私を心配して  「あおいの好きなオムライス作ったよ。」とか  「学校に行きたくないならずっと行かなくてもいいよ。」とか言って私を慰めていた。  私は毎日ベッドに潜り込んでパパからもらった星の砂を握りしめてメソメソ泣いていた。  でも、私は内心焦っていた。  私はだんだん日常を取り戻していくママや皆に、このまま置いて行かれるんじゃないかと思って1か月半位して、ようやく学校に行った。  でも学校に復活する日、私はパパからもらった星の砂を小さい水色のきんちゃく袋に入れて、そっとランドセルにしのばせた。  学校から帰ってきたら又、きんちゃく袋から取りだして必ず自分の近くに置いた。  勉強をするときは勉強机に置いて、ピアノのお稽古をする時はピアノの上に置いて、犬の”ルル”のお散歩に行くときもまた、ポケットに入れて持ち歩いた。  星の砂は私にとっていつの間にか死んだパパそのものになっていた。  私は、学校で嫌な事があったとき、友達とケンカしたとき、ピアノが上手く弾けなくなった時はいつも星の砂に喋りかけた。  パパが言ってたとおり、悩み事を砂に向かって話して瓶を2,3回シャカシャカと降ると、砂が私の思いを飲み込んで消していってくれるような気がした。  優しいパパがそこで微笑んでいるような気がした。 ----------------------------------    そうやって星の砂を片時も手放せないまま、私はいつの間にか中学生になっていた。  そろそろ高校受験をひかえる年齢を迎えてもまだ、私は星の砂を肌身離さず持ち歩いていた。  そんな中、ある日親友のナオと星の砂を巡って口論が起きた。   ナオは私の親友で家も近所、幼稚園からの付き合いで私の事は何でも知っている。  パパが亡くなった時、学校に行けなくなった私を心配してよく家まで様子を見に来ていた。  でも最近、私はナオに対してイラついてしまう時があった。彼女は少しおせっかいが過ぎる所があると昔から思っていたのが、それがだんだん積もり積もっていたのかもしれない。  ナオは頼んでもいないアドバイスをしてくる所があって、私は少し嫌だなと思う事がこれまでにも何度もあった。 彼女なりの優しさなんだろうけど、私にはほっといてほしいと思う事まで彼女は母親のように手を焼いてきた。  元々、しっかり者の彼女の性格がのんびり屋な私といるとそうさせたのだろうけれど、パパを亡くしてからナオの私に対するお世話焼きは更にエスカレートしていっているように思えた。  今日、学校で美術の授業の為自分の教室から美術室に移動するときの事だった。  私は授業の為の準備をして、ナオと美術室に向かおうと廊下に出て進み始めた。少し歩いた所でハッとした。  星の砂を教室に置いて来てしまった。学生カバンの中にきんちゃく袋に入れて置いているけれど、私は移動教室などがある時「まさか誰かに取られやしないだろうか?」と心配になってしまうから、ペンケースに入れ替えて一緒に持って行くことにしている。  私は廊下でナオに  「ごめん、忘れ物しちゃった。先に行ってて。」と言って教室に星の砂を取りに戻った。  30秒程して私が星の砂を取って戻って来るとナオはまださっきの場所で私を待っていて、呆れたような顔でこっちを見ていた。  彼女は何か言いたげだったけど、私たちはその時は急いで美術室に向かった。  ところが、その日の下校時彼女は私に言ってきた。  「ねぇ、あおい。その星の砂いつまで肌身離さず持ち歩くつもり?」と尋ねてきた。  「えっ、いつまでって別に決めてないけど、いいじゃんそんなの。誰にも迷惑かけてないんだし。」  「そりゃそうだけどさ、これから高校受験とかもあって、その為の面接とかもあるっていうのに、その度にそうやって星の砂握りしめて気にしながら生きていくの?」と言った。  私は何だかその言葉でとても恥ずかしい気分になった。  まるで私は10歳の時から時が止まっているかのようだと言われているみたいだった。  早く手放さないとダメな大人になると言われているようだった。  私はその恥ずかしさでカッとなってしまったのが自分でも分かったぐらいだった。そしてつい強い口調で彼女に言い返してしまった。  「何?じゃあ、これを捨てろとでも言ってるわけ?」  「えっ?そんな事言ってないじゃん。でも、この先一生そうやって事あるごとに握りしめたり、忘れて取りに戻ったりしてたら最終的にあおいが困るんだよ?そろそろ肌身離さず持ち歩くのやめたら?大体、そんなに貴重だって思うもの学校に持ってきたらダメだよ。あおい、もうちょっと強くならなきゃ!」  私は悔しさと恥ずかしさでいっぱいになって今にも泣きそうだった。  そんな私を見て彼女は言い過ぎたと思ったのか  「まぁ、今のはちょっと言い過ぎたけど、そろそろ少しづつさ、無くてもいいように練習していかないと。一緒に行動しなくてもやっていけるようにしなきゃ、いざという時困るじゃない?私も出来ることがあったら手伝うからさ。」  と、言い直したが私は既に怒りが頭の頂点まできてしまっており  「本当にウザい!!これはそんな理由で持ってるんじゃないもん。大体、前から思ってたんだけどナオのそういう母親目線で私に色々言ってくる所うっとうしいって思ってたんだよね!!」    そう言って、私は驚く彼女を置いてスタスタと足早に家に向かい始めた。  彼女は後ろの方でまだ驚いている。  「え、そんな事思ってたの?ヒドイ!私はあおいの為と思って……」  まだ何か言っていたけど私はそれを無視してそのまま走って家まで帰って来てしまった。  学生カバンを部屋に放り投げて、制服のジャケットだけ急いで脱いだら私はそのままベッドに倒れこんだ。  「何よ、人の気持ちも知らないくせして…。」  そう考えていると私の目から自然と涙が出てきて、瞬く間にお気に入りだった紺色に黄色い星柄がついた枕カバーが自分の涙で濡れていった。  ----------------------------------  床に放り出した学生カバンの隙間から薄い水色に白色の小花がプリントされた小さなきんちゃく袋が顔を覗かせている。  私は手を伸ばしてきんちゃく袋の紐を自分の方へ手繰り寄せた。  星の砂に向かってしゃべり掛けようとベッドの上から手だけ伸ばしてグイグイと紐を引っ張った。    片方の紐を掴んで引っ張り上げたその時、しっかりと閉まっていなかったきんちゃく袋から星の砂の瓶がスルリと飛び出し、私の目の前をスローモーションで宙に舞った。  「あっ、危ない!」  そう思った時にはもう遅かった。  キレイな空色をした瓶はそのまま床に叩きつけられ、カシャンと鮮やかな音をたてて割れてしまった。   中から鮮やかなコバルトブルーの星の砂がこぼれ出している。  「嘘、割れた。」  慌ててベッドから飛び上がり床に落ちた星の砂をガラスに気を付けてかき集めた。  初めて触った星の砂はサラサラでいつか家族旅行で行ったビーチの砂を思い起こさせた。  私はショックで茫然と星の砂を見ていた。  「パパ…どうしよう、割れちゃった。」涙が頬を伝って流れ落ちて星の砂の上にポタリと一滴落ちた。  鮮やかなコバルトブルーの星の砂が涙に濡れて、少し深い藍色になった。 ----------------------------------   放心状態で砂をジッと見つめているとそこから波の音が聞こえてきた、遠くにカモメの鳴き声が響き渡る。  砂を含んだ潮風が頬にパチパチとあたって少し痛い。  懐かしい匂い。  パッと顔を上げるとビーチで風に煽られながら頑張ってパラソルを組み立てるパパがいた。  あれ?ここは…何だか見覚えがある景色。どこだっけ?そうだ、パパがまだ生きていた頃家族旅行で行ったスペインの海だ。  パパが仕事で訪れたスペイン南部の街を凄く気に入って、是非私たちも連れてきたいと私が小学校1年生の夏休みに家族皆で来た場所だ。  「何で、私またここにいるの?え、パパいたの?ずっとどこにいたの?」  「何言ってんだ。ほら、海に入るぞ」  まだ7歳の私とあの頃のパパがいる。  私は初めて見る大海原に大興奮して、その海の綺麗な青さと潮風に完全に魅了された。  砂はサラサラで、水はクリスタルの宝石の様にキラキラして透き通っており浅瀬で泳ぐ魚たちが見えている。  そんな魚たちを見てはしゃぐ私をパパが笑って見ている。  「どうだ、キレイだろう?」  「うん、お魚さんたちが見える!!」  私はゴーグルをつけて一生懸命海の中の魚たちを追いかけまわした。  パパは私の両手をとってバタ足の練習をさせたり、小さいサーフボードに私を載せて波に乗せてくれたりした。  ママは白色のサマードレスに身を包み、まだ赤ちゃん姿の湊を抱いてビーチパラソルの下でそれを優しく見ている。  海でバタ足をしていると、それまで私の手を引いていたパパの手が突然パッと離れた。私は海の中で置き去りにされたように感じて、体を起こしてみると海の沖の方に泳いでいくパパが見えた。  「パパ、そっち行っちゃダメ!危ないよ。戻ってきてー」  私の声は届かずにパパはどんどん泳いでいってあっという間に小さくなってしまった。遠くの方に大きな黒い貨物船がゆっくり運航するのが見える。ボォーっと汽笛をならすと、パッと大きな船の上から長いハシゴが下りてきてパパを拾い上げた。  パパは長いハシゴを身軽にトントンと登っていくと乗組員の人たちと肩を抱き合って喜んだりしている。     船員の人達はパパの体にタオルを掛けたり、握手をしたりして涙を流しながら笑いあっていた。  私もパパに追いつこうと浅瀬から海に飛び込んで一生懸命泳いでいく。  波が高くて中々前に進まない、小さな私は何度も何度も波に追い返される。  それでも私は小さい体で前に進もうと必死に泳いだ。  すると後ろの方で湊を抱いたママが私を呼んだ    「あおい!戻っておいで、ご飯が出来るよー。今日はあおいの好きなオムライスよー。」  そう言ってママは私に手招きをした。  「でも、パパが。ママ、パパが遠くに行っちゃうよー。」と叫ぶ私にママはニコニコ笑いかけるだけだった。  海の真ん中に立たされた私はまたパパが乗り込んだ貨物船の方を見て  「パパ、戻って来てー。行っちゃダメだよー。」と、一生懸命声を張り上げた。  パパはこっちに気付いて、大きく両手を振って何か言っている。  「あおいー、ママのところに戻りなさーい!パパは大丈夫だからー。いってきまーす」と言った。  「パパ、行っちゃダメだってばー。戻ってきてー」  私がそう言うと貨物船はゆっくりと向きを変え、ボォー、ボォーっと大きな汽笛を2回鳴らして沖に向かって出発してしまった。  私はまだ海の真ん中に立ち尽くしたままゆっくり離れていく貨物船を見ていた。すると、船の後方に肩からタオルをかけたままのパパが現れて何やら白い布を船の後ろにパッとかけた。  白い布は船の帆のように勢いよく大きく空に広がってまるで巨大キャンバスのようになった。  そこには見覚えのあるパパの字があり、書道のような大きい群青色の文字でこう書いてある。  ”海の(あお)より深く    空の青より広い      真夜中の草木に眠る永久(とわ)(あお)”  「あおい!!お前は大丈夫、何にだってなれる!だから強く生きていきなさい。」そう言い残すとパパは行ってしまった。  ----------------------------------  「あおい?寝てるの?ご飯できたよ。」  ママの声で目が覚めた。  「あれ?夢だったの?」  「寝てたの?珍しいじゃない、ピアノの練習もしないで。ご飯食べるでしょ?今日はあおいの好きなオムライスよ。」    そう言ってママは2階から下のリビングルームに降りて行った。  夢か…。ベッドで目を覚ました私はあっ!と我に返って起き上がり床の上を確認した。  学生カバンから飛び出した水色の小さなきんちゃく袋から星の砂の瓶が少しだけ顔を覗かせていた。フタはしっかり閉まっている。  「良かった。割れてなかったんだ。」  私は取り出して瓶を両手でギュッと握りしめて胸に抱いて、はぁーっと息を吐いた。  涙のあとを制服のシャツの袖で拭き取ってよろよろと立ち上がった。  不思議な夢だった。  まるでパパが本当にそこにいたみたいに現実的な夢だった。  あの言葉、どういう意味だったんだろう?  ”海の(あお)より深く    空の青より広い      真夜中の草木に眠る永久の(あお)”     パパ、会いたいよ。強く生きていきなさいって言われても…。  そこで、私は今日ナオとケンカした事を思い出した。  あの時はムッとしてしまったけど、ナオの言う通りだ。  私、いつまで星の砂を握りしめて生きていくんだろう?  そんな事を考えながらリビングルームに行こうと思って枕元のスマホを見た時、スクリーンに着信の通知がきていた事に気付いた。  私が寝ている間、ナオから2回着信があったみたいだった。  そして私が出なかったから、LINEにメッセージもきていた。  ”今日はごめんね。あおいの気持ちを無視するようなこと言って。  あおいのパパが亡くなって5年経つね。でも、あおいにとってはあれからずっと星の砂がパパの代わりみたいだったんだよね?そんな事も分からずにヒドイこと言って本当にごめんなさい。反省しています。  怒ってる?”  私は何だかナオにも申し訳ない気持ちになってしまった。    そしてパパはきっとこんなこと望んでいなかったはず。  私とナオが星の砂を巡ってケンカしたなんて聞いたら悲しい気持ちになるだろうな。  夢でのパパの最後の言葉が繰り返し頭をよぎる。  「あおい、強く生きていきなさい。」      私はスマホをそのまま置いてリビングルームに下りて行った。  台所でママが晩御飯の準備をしている。私が好きなオムライスをお皿に盛りつけているところだった。  私はキッチンとリビングルームをつなぐカウンターテーブルの所に置いてあるパパの写真の前まで行った。  写真の中のパパはこっちを見て優しく微笑んでいる。  その隣にはスペイン旅行に行ったときの家族写真がセレストブルーの木製の写真立てに入って飾られている。  私はパパの写真立ての横に星の砂の瓶をそっと置いた。  それを見ていたママは  「あら、どうしたの?肌身離さず持ってるんじゃなかったの?」と言った。  「いいの、私ちょっと大人になるの。」と言うと  「どうしたの、急に?学校で何かあった?」と不思議そうに私の顔を覗き込んだ。  「ううん、何にもないよ。ただ私ももう15歳だしね。」 そういうと、ママは少し不思議そうにこっちを見ながら、  「ふふっ、そうなんだ。じゃあ、ママもあおいを見習って大人になーろうっと。」と冗談っぽく言った。  「ママ、真似しないでくれる?」そういうと  「じゃあ僕も大人になる!」とそこにいた湊まで言ってきたので私は    プッと笑って「もぉー、真似するの禁止!」と二人に言った。  晩御飯を食べ終えて、私は自分の部屋に戻って勉強机に座りふぅっと一息ついた。  いつも目の届く場所にあった星の砂の瓶が今はもうない。これでいいのかな?  大人になるってなんだろう?  強くなるってなんだろう?  少しづつ何かを手放していくことなのかなぁ?  これでいいのか分からないけど少しづつ強い人になっていきたいよ。  私はスマホを手に取ってナオに返信した。  ”ナオ、こっちこそ今日は言い過ぎてごめんね。私の為を思って言ってくれた言葉なのに…逆に傷つけてしまって。私、ナオに言われたみたいにもうちょっと強くなる必要があると思う。少しづつ頑張るね。私、明日から星の砂は学校に持っていかない。”  暫くしてナオから返信があった。  ”ありがとう、あおい。私も少しづつお世話を焼きすぎるところ直していきたい。もし、私がおせっかいだと思ったら今度から遠慮なく言ってね。また明日学校で話そう”  これで良かったのか分からないけど、私はなんだか一歩前に進めたような気がした。 ----------------------------------     その日の夜、やけにのどが渇いて真夜中に起きて水を飲みにキッチンに下りて行ったら、1階の部屋が青く染まって見えた。    さっき写真立ての横に置いた星の砂の瓶が、カーテンの隙間から入って来る月明かりに照らされてキラキラ光っていた。  その横のパパもスペインのビーチにいた私たち家族も皆キレイな青色に染まっていてまるで海の中にいるみたいだった。    「そっか、今日学校で先生が言ってたけど、今夜は満月でブルームーンって言うんだっけ?お月様まで青いなんて何だか今日の一日はずっと青色に囲まれてるみたいだったな。まるで、海の中、ううんそれとも空の上?」     私は窓の方に近づいて行って空を見上げて月を眺めた。  そういえば、昔パパに聞いたことがあった。  私の名前、どうして”あおい”でどうして”ひらがな”なの?って。  パパは「それはもちろんパパが海の青色が好きだって言う事。そしてもう一つは青色は一色だけじゃなくて色んな種類の青色があるように、あおいも自分の好きな青色を見つけて欲しいと思ったから、あえて漢字は与えなかったんだ。決してパパの好きがあおいの好きと同じじゃなくってもいいんだぞ」って。  そっか、夢の中でパパが言ってたこと。  「あおいは何にだってなれる。って、そういうことだったんだ。」  私は何だか自分の中で納得がいったような気がした。  海の中のような幻想的な空間の中コップ一杯の水を飲んだら、もう一度窓の方まで行ってカーテンをピッタリと閉めなおした。    そして  「パパ、ありがとう。私、少しだけ強くなった気がするよ。」  写真立てのパパとその横に置かれた「コバルトブルーの星の砂」に向かってそう言うと、向きを変えてまたベッドに戻って行った。   カーテンを閉めたにも関わらず、星の砂がまだそこで青色の光を放っているような気がしたけれど私は振り返らずに階段を上って行った。                          
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