正夢

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空に浮かぶ入道雲が夏の陽光を受け、ゆっくりと流れている。 ここは地方にある田舎のとある村。 市内から車で30分程の、郊外ギリギリにある村だ。 辛みがありながらも甘さのある玉葱が有名で、この特産品を使った玉葱街道には、田舎ながらぽつぽつと県外客が見える。 その街道を北に外れて進むと、(そび)え立つ山々の麓に広がる田園風景が出迎えてくれる。 コンクリートで舗装されていない砂利道を、田舎では絶対に見ることのない高級車が走り抜けていった。 今、ごつごつとした石垣を構える日本家屋の前に、一台のクラウンが上品に停車した。 ワックスでコーティングされたばかりで、艶やかに照り返す車から姿を現したのは、漆黒のスーツを着た体格の良い男2人。 その内、額に大きな傷痕がある方が、後部座席左側のドアを丁寧に開けた。 昭和の愛すべき時代を象徴しているとも言えるリーゼントヘアが、人の足より早く顔を出す。 「お疲れ様です」 座席を滑りながらスマートに降車したスーツ姿の男は、着ている背広を正した。 「……例の物は?」 「はい。ここに……」 アタッシュケースを持ったもう1人の男が、七三分けにした前髪を指先で拭い返事をする。 石垣前にある立派な伝統家屋を眺め、リーゼントヘアをキメた男がふぅーっと息を吐いた。 「……行くぞ」 そのリーダー格の男を先頭に、力強く砂利道を蹴って前に進んでいく。 日本家屋の門が左手に見えてきた。彼らの歩く速度が速くなる。 「ここだ」 リーダーはくるりと門に背を向け、付き添いの男達に厳しい眼差しを向けた。 「いいか、家に入ったら俺と同じように行動し、指示には必ず従え。勝手に喋ったりもするな。……間違っても、家の中の物は絶対に触るんじゃないぞ」 緊張した面持ちで二人は頷いた。 「よし……気合を入れろ」 リーダーは、再び歩き出した。 日本家屋の門をそのまま通り過ぎ、隣の現代建築を如実に体現した家の前で足を止めた。 震える手でチャイムを立て続けに三回押下する。 インターホンからの返事はない。 「第一段階クリアだ」 傷跡の男が右耳につけたインカムを手で押さえる。 「第一段階、クリアしました」 玄関横にある丸い植木鉢は、高さ50cm程だろうか。 2mくらいの琵琶の木が両手を広げたように枝を伸ばしている。 それを、リーダーが顎を突き出して指示を出す。 「やれ」 「はいっ」 付き人2人が勢いよく鉢を持ち上げた。 リーダーが錆びた銀色の鍵を拾い上げ、玄関扉の鍵穴へ差し込む。 ——カチャリ。 「……第二段階クリアだ」 「第二段階、クリアしました」
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