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彼はもともと、顔はかっこいい方だが、何も話さなければ怖い顔をしているため、私以外の社員ほとんどが彼を怖い人だと思っている。
私はこの顔が好きなのだが。
「こうしたら分かりやすいんじゃないか? っておい、笹本聞いてるか?」
「えっ?」
「『えっ?』 じゃないだろ。俺の話聞いてたか?」
「すいません……。全く聞いてませんでした」
「おいおい。もしかして体調悪いのか? いつもは俺の話をちゃんと聞いてくれてるのに。大丈夫か?」
そう言って、私の額に彼の大きくてごつくて男らしい手が触れた。
そして体調を伺うように私の顔を覗き込んできた。
目が合ってはじめて、自分の状況を理解し、恥ずかしさで思わず彼の手を払ってしまった。
「だ、大丈夫です。ちょっと気が抜けていただけなので」
「そうか?」
「はい、心配をおかけしてすいません。さっきの所は千田部長がおっしゃった通りに見直してみます。ですが、一度頭を冷やしたいので、給湯室で休憩してきます」
彼の何気ない行動に動揺してしまった私は、自分の情けなさから、思わず給湯室へ逃げてしまった。
去り際にちらりと彼を見ると、もの言いたげな、少し傷ついた顔をしていたが、そのことについて考える余裕がなかったのだ。
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