ビターな彼とバニラな魔神

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 その日は突然来た。  会社帰りに二駅歩いて家に帰り、着替えて彼とふたりでごはんを食べ終え、さあ本番、とばかりにケーキを出してきた彼が、フォークを口に入れた私を見つめながら言ったんだ。 「サリナ、最近太った?」  言われた―!! つ、ついに言われてしまった! いつか言われると思っていたけど、実際言われるとナイフみたいにぐっさり刺さるわ! 「う、うん…。ちょっとだけね…」  恐る恐る肯定すると、マサヤは私のおなかをジーッと見ながら 「ちょっと、かなあ? なんか、付き合いだした頃よりかなり太ったよね? もしかして気、抜いてる?」  はあああ?! 気を抜いてるですとぉぉ?! 私が毎日どれだけ努力してるか知らないくせに、なんてこと言うのよ―!!  一気に血が上った頭をなんとかクールダウンさせようと深呼吸をする。 「あのね、マサヤ」  できるだけ落ち着いた声を出して彼に言う。 「マサヤが毎日家でも試作してるのは、本当に努力家だと思う。でも、それを食べるのは私だって、ちゃんとわかってる? 毎日2個はケーキ食べてたら、努力したって、少しは太るって思わない?」  ゆっくりと言いたいことを伝えた私に、彼はさらりと 「オレ、職場でも家でもケーキ食べてるけど? でも体重変わらないぜ? むしろ就職して痩せてきたし」 と言うではないか。  なんてこと! マサヤはなんにもわかってない! 「それはね! マサヤが就職して働きだしたからでしょ?! 学生時代と違って立ち仕事じゃん! そりゃ痩せてもくるよ! でもね! 私はデスクワークなの!! 毎日座りっぱなしで仕事してんの!! それでもマサヤのケーキ食べるために毎日朝と帰りに一駅歩いてるんだからね!」 「『食べるため』?! 『ため』って何だよ! おまえ、オレのケーキ喜んで食べてたんじゃないのかよ! 美味しいって喜んで食べてるのはおまえだろ?! それともお世辞? あれ、お世辞なワケ?!」 「違うよ! 本当に美味しいよ! でも毎日ケーキ2個も食べて太らない女の子はいないんだから! わかってよ!」  しばらく無言で睨み合う。先に目をそらしたのは彼だった。 「…わかった。もう家では試作しないから。それでいいだろ?」 「待って…! ひ、ひとつ! 一日ひとつなら、大丈夫だからっ! だから試作しないなんて言わないでよ!」  慌てて妥協案を出す。マサヤは疑わしそうな目で私を見てたけど、ふう、と息を吐くと、 「わかった。一日一種類だけ。家での試作はそうするよ。それでいいだろ?」 「うん…! ごめんねマサヤ…。ありがとう」 「いや、オレも怒鳴ったりしてごめん」  こうして、私のノルマは1日2個から1個に減った。
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