1章:ずっと一緒だと思っていた…

16/31
前へ
/346ページ
次へ
「そうなんだ。それなら移動しよっか」 初めてが私…なんていう、淡い夢は抱いていない。 それでもやっぱり、私が初めての女性でありたいと願ってしまうのであった。 「幸奈、混んでるから、迷子にならないように手を繋ごう」 私はバカなのかもしれない。些細なことで不安になるというのに、彼に求められてしまえば、不安な気持ちは一切なくなり、最終的にはこうやって簡単に絆されてしまう。 自分でも矛盾していると自覚している。恋とはそういうものなのかもしれない。 相手の言動一つで、感情が揺れ動かされてしまうのだから。 「うん。いいよ。手を繋ごう…」 それ以外、特に言葉が思いつかなかった。 手を繋ぐという行為自体、彼にとっては迷子になるのを阻止する手段でしかなく、深い意味などないことは分かっている。 彼は私に気がないと思う。それならば、彼が私に振り向いてくれるまで、待つことにした。 「幸奈、ここが穴場スポットだよ」 花火が見やすい場所に着いた。空を見上げてみると、ちょうど花火が打ち上がるタイミングだった。 「綺麗…」 「綺麗だな」 空に綺麗に咲いた花火を見ることができて、暗い気持ちも少し吹き飛んだ。 そんな花火も長いようで一瞬で。気がついたら終わっていた。
/346ページ

最初のコメントを投稿しよう!

337人が本棚に入れています
本棚に追加