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「そうなんだ。それなら移動しよっか」
初めてが私…なんていう、淡い夢は抱いていない。
それでもやっぱり、私が初めての女性でありたいと願ってしまうのであった。
「幸奈、混んでるから、迷子にならないように手を繋ごう」
私はバカなのかもしれない。些細なことで不安になるというのに、彼に求められてしまえば、不安な気持ちは一切なくなり、最終的にはこうやって簡単に絆されてしまう。
自分でも矛盾していると自覚している。恋とはそういうものなのかもしれない。
相手の言動一つで、感情が揺れ動かされてしまうのだから。
「うん。いいよ。手を繋ごう…」
それ以外、特に言葉が思いつかなかった。
手を繋ぐという行為自体、彼にとっては迷子になるのを阻止する手段でしかなく、深い意味などないことは分かっている。
彼は私に気がないと思う。それならば、彼が私に振り向いてくれるまで、待つことにした。
「幸奈、ここが穴場スポットだよ」
花火が見やすい場所に着いた。空を見上げてみると、ちょうど花火が打ち上がるタイミングだった。
「綺麗…」
「綺麗だな」
空に綺麗に咲いた花火を見ることができて、暗い気持ちも少し吹き飛んだ。
そんな花火も長いようで一瞬で。気がついたら終わっていた。
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