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「そろそろ帰ろっか」
愁がそう言うと、再び手を繋いで歩き始めた。
今思えば、素直に『好き』と伝えていたら、何かが大きく変わっていたのかもしれない。
でも、気持ちを伝えることなく帰宅した。帰り道、ずっと手を繋いでいた。そして家まで送ってくれた。
手を繋いでいるだけで、私の気持ちが愁に伝わっちゃえばいいのに…。
そしたら、愁は私に振り向いてくれるのかな?
愁にとって手を繋ぐということは、意味のない行為なのかもしれない。
それでも私にとっては、手を繋いでいるというだけで意味がある。
だからこそ、この手が離れてしまうのが怖い。
もうすぐ魔法が解けてしまう。タイムリミットが迫ってきている…。この時間が終わってしまうことが、どれだけ怖いことか。
だって、もしかしたら、明日から愁の傍に居られなくなってしまうかもしれないから。
「着いちゃったね…」
アパートに着いた途端、お互いの手が離れてしまった。まだ手を繋いでいたかった。だって、もっと愁と一緒に居たいから。
それはあまりにも大胆すぎるお願いで。恥ずかしくて言えないので、ここで解散することにした。
「送ってくれてありがとう」
いっそのこと、好きだって伝えてしまいたい。
言いたいことはたくさんあるはずなのに、いつも言えずにいる。
なんだか愁も、私が伝えるのを待っているかのように感じた。
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