338人が本棚に入れています
本棚に追加
「幸奈、一緒に帰ろうぜ」
私に対する愁の態度は、相変わらずだった。
愁が今、何を考えているのか分からなかった。
「うん、いいよ」
一度誘いを断ってしまえば、愁は私の傍から離れていってしまうのではないかと思うと怖い。
それでもまだ私は、ずっと愁の傍に居たいと思った。
私って身勝手だ。我儘にも程がある。そんな自分が許せなかった。
愁は今、私のことをどう思っているのだろうか?少しでも私のことを女性として意識してくれているのだろうか。
思えば、たくさん愁と一緒に過ごしてきた。一緒に帰ったり、花火大会に行ったり、家に泊まったり…。
私の心の中はずっとモヤモヤしていた。上手く切り替えようとしても、アルバイト中ずっと楽しそうに話す愁の顔が忘れられなかった。
私じゃ無理なのかな…?ダメだ。考えたって無駄だ。寧ろ今がチャンスなのかもしれない。
それなのに、まだ勇気が持てずにいた。今思えばこの時、一歩を踏み出せていたら、何か変わっていたのかもしれない。今更、もう遅いが…。
「今日のバイトはきつかったな…」
他愛のない会話から始まった。ザラザラした心の中を隠しながら、調子を合わせて話す。そんな自分が嫌いだ。
「きつかった。本当に疲れた…」
本当に言いたいことは言えないくせに、くだらない話ならいくらでも話せてしまう。
「今日もまた女子高生、来てたな…」
愁の方から核心に触れてきた。心臓を鷲掴みにでもされたかのように、息をすることさえできない感覚に陥った。
「そう…だね。とか言いながら、楽しそうに話してたじゃん」
嫌味な言い方をしてしまった。本当は話してほしくないって言いたいのに…。
「何?妬いてるの?幸奈、俺のこと好きなの?」
絶対にからかわれてる。私には愁のその態度が、自分の気持ちを踏み躙られたかのように感じてしまい、それがどうしても許せなかった。
最初のコメントを投稿しよう!