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「愁は私が好きだと嬉しい?」
ここで好きだよと、言えないのが私の心の弱さだった。
「俺さ、あの子に告白されたんだ」
話が上手く噛み合っていない。予感は的中した。そう聞かれた時点で、ある程度は想像していた。
愁から一番聞きたくない言葉だった。この時ばかりは、そんな自分を呪いたくなった。
「幸奈、俺、あの子と付き合おうと思う」
その場に崩れ落ちそうになった。もうこれ以上は聞きたくない…。
何て答えたらいいの?付き合わないでって言えばいいの?
「幸奈はどう思う…?」
どう思っているのかなんて、愁の気持ちを知った上で、私の気持ちを伝えられるはずがなかった。
本当は私にどうしてほしいのかなんて分かっていた。
それでも今は、こう答えることしかできなかった。
「さっき言ってなかったっけ?その子と付き合うことにしたって…」
愁は表情で訴えかけてきた。俺があの子と付き合ってもいいのかと…。
私にはそれを咎める権利などない。愁の彼女ではないから。
そんな顔をするくらいなら、あの子と付き合うなんて言わないでほしかった。
「そう…だよな。ごめんな、変なこと聞いちまって 」
この時、私は愁のことがよく分かっていなかったのだと、後で思い知ることになる。
しかし、まだそのことに気づいていない私は、胸に苦しい想いを抱えたまま、突然の変化に戸惑いを隠しきれなかった。
当たり前なんて永遠に存在しない。特に恋愛は突然、予期せぬ変化が訪れる。
その変化の先に、穏やかな日常があるのかもしれない。
それが分かるのは、まだ少し先のお話…。
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