番外編:大切な人〜中山side〜

5/22
前へ
/346ページ
次へ
まだ忘れることはできないと思う。 それでも、前に進もうとしている彼女のことを応援したいと思った。 「そっか。分かった上で付き合ってたんだね。偉いね」 思わず手を伸ばし、彼女の頭に触れてしまった。 これはまずいと思った瞬間、彼女の頬は赤く染まっていた。 「ご、ごめん!こんな所で……」 彼女に止められるまで、俺は我に返ることができなかった。 どうして、彼女の頭に触れてみたいと思ったのだろうか。こんな気持ちになるのは、初めてのことだった。 「いえ。ありがとうございます。少し心が軽くなりました」 心做しか、彼女の表情が少し明るくなったような気がした。 「よかった。元気になってくれたみたいで」 彼女が少しでも元気を取り戻せたことが、自分のことのように嬉しかった。 「どうして、私のことを気にかけて下さったんですか?」 唐突に質問されて、俺は面食らった。 特に何も考えていなかったからである。 「特にこれといって理由はないんだけれども、ずっと気になってたんだ。君のことが」 俺は愁みたいに器用な方ではなので、この場を上手く乗りきる術を知らない。 きっと愁なら、女の子の扱いが上手だから、適当に上手くかわせそうだ。 アイツは大平さんのことになると、途端にダメになってしまう。 もっと大平さんの前でも素直になればいいのに。もしかしたら、二人っきりになったら甘えているのかもしれないけど。
/346ページ

最初のコメントを投稿しよう!

324人が本棚に入れています
本棚に追加