番外編:とある日の二人〜幸奈side〜

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「お待たせ…」 服を着て現れた彼に、私は抱きついた。 急に甘えたくなった。特に理由なんてない。目の前に好きな人がいる。ただそれだけだった。 「幸奈?どうした?何かあったのか?」 「何もないよ。ただくっつきたいなと思っただけ」 本当は筋肉とか筋トレとか、そんなものはどうでもよくて。私はあなたに触れてみたかっただけなのかもしれない。 今の私達にはただの言い争いでさえも、甘い時間にしか過ぎなかった。 「俺も同じことを考えてたよ。さっき触られた時、俺がどれだけ我慢してたと思う?」 我慢ができない愁からしてみたら、かなり耐えていた方だと思う。 私は自らの軽率な行為により、愁を煽り、お預けを食らわせていたということになる。 「ごめんなさい。私、いつもそうやって愁のことを無自覚に煽ってるよね…?」 「今だってそうやって、悪いと思いながら上目遣いになってる。 俺、心配だよ。他の男にも同じことをしているんじゃないかって…」 さすがにそれは有り得ない。他の男性には愁と同じことなんてしない。 でも無自覚な私のことだから、気づいていないだけという可能性もある。 「大丈夫だよ。私、そんなに可愛い方じゃないし!心配要らないって」 どう考えても、苦し紛れな言い訳だ。日頃の自分の行いを考えれば、胸を張って強く違うと否定できなかった。 でも心配をかけたくないのであれば、もっと強く否定すれば良かったのかもしれない。
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