2章:一番になりたい

4/17
前へ
/346ページ
次へ
           ◇ 休憩が終わってから、ずっと上の空だった。幸いミスをすることはなかったが、頭の中はずっと愁のことばかり考えていた。 「お疲れ様でした。幸奈、気をつけて帰れよ。 それじゃ、お先に失礼します」 上機嫌な様子から察して、皆にすぐにバレた。 「彼女とデートか?」なんて質問攻めにされても、愁は嫌な顔など一切せず、「はい!泊まりです。」と笑顔で答え、「エッチなことするんだろう?」…なんて茶化されていた。 羨ましい。私も茶化される相手になりたかった。 「大平さん、お疲れ様。愁から話は聞いてるかな?俺が大平さんを送ってくことになってます。 俺はもう支度が終わってるんだけど、大平さんはもう帰り支度は終わってるかな?」 同僚の中山くんが、珍しく私に声をかけてきた。 どうやら、愁の代わりに送ってくれる人は、中山くんのようだ。 誰に送ってもらうのか、事前に聞かされていなかったので、中山くんだと知り、少し驚いた。 「うん、もう大丈夫だよ。今日はわざわざ愁の代わりにありがとう。助かります」 「いえいえ。寧ろ暗い夜道を大平さん一人で帰らせるわけにいかないし。 あと、大平さんと話してみたいって思ってたんだよね」 私と…?中山くんとは仕事上だけの付き合いなので、意外な展開に頭が追いつけなかった。 「警戒しないで。俺が大平さんと話したいのは、愁のことだから」 中山くんが話したい愁の話って一体、どんな話をしたいのだろうか。 私が一番愁のことを知っているものだとばかり思っていた。 この口振りから察するに、あまり良い話ではない予感がした。
/346ページ

最初のコメントを投稿しよう!

338人が本棚に入れています
本棚に追加