2章:一番になりたい

7/17
前へ
/346ページ
次へ
「…もう遅いよ。なかったことになんてできないよ……」 聞きたくなかった。もう後戻りはできない。ヒリヒリと胸の痛みが広がっていった…。            ◇ 『愁は大平さんのこと、好きだったんだよ』 あの日以来、頭から消えずにいた。 愁を見る度に、この言葉が脳内を何度も過ぎる。 「幸奈…?」 バイト中だということを忘れてしまうほど、私の心はここに在らずだった。 そうなってしまった原因でもある張本人に、心配される始末だ。 「…ごめん。考え事してた」 幸いミスはなかったが、今は仕事中だ。いつまでもぼーっとしていられならない。ダメだ、上手く切り替えないと…。 「本当に大丈夫か?あまり無理はするなよ。 それにしても珍しいな。幸奈が仕事中に考え事なんて」 全部、あなたのせいだ。責任を取ってほしい。もうあなたには大切な人がいますけど…。 この距離がもどかしい。今すぐにでもあなたを奪ってしまいたい。 もう誰にも渡さないように、誰の目にも触れないようにして…。 「そう…かな?大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」 どうしてだろう。もっと素直になりたいのに、強がってしまうのは…。 「ならよかったよ。あ!そうだ!今日はちゃんと一緒に帰れるからな。先に帰ったりするなよ。絶対に俺のことを待ってろよ」 そんなに優しくしないでよ。そんなふうに優しくされると、あの言葉が脳裏を過ぎってしまう。
/346ページ

最初のコメントを投稿しよう!

338人が本棚に入れています
本棚に追加