1章:ずっと一緒だと思っていた…

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この指を離したくないと思った。 この指きりが、恋人繋ぎに変わればいいのに…。なんてことを思ってしまった。            ◇ あの日から、本当に彼と毎回一緒に帰っている。 同じシフトの時以外でも、わざわざ迎えに来てくれて。必ず私が住むアパートまで送ってくれた。 これがどういうことなのか、自分ではよく分からなかった。 周りからは、「二人は付き合ってるの?」なんて茶化された。 そう見えてもおかしくはなかった。シフトが被っている時ならまだしも、被っていない時でさえも送ってくれるのだから。 しかし、周りには確信が持てないので、「違いますよ」としか答えられないのが、もどかしかった。 自分に何度も言い聞かせた。これは深い意味などないと…。 苦しい。早くこの恋が実ればいいのに。そう思わずにはいられなかった。 でも、そんなある日、前進することができた。 それは私と彼の呼び名が変わったことだった。 前までは他人行儀みたいに、名字で互いを呼び合っていた。 それがある日の帰り道。彼の方から提案してきた。 「そろそろ名字で呼び合うのもあれだし、名前で呼び合わない?」 岩城くんの下の名前は(しゅう)。ただ愁と呼ぶだけなのに、息が詰まるような感覚がした。 声に出して、名前を呼ぼうとすると、声が震えてしまう。これじゃ、緊張しているのがバレバレだ。 上手く誤魔化すために、一呼吸置いてから彼の名を呼んだ。 「愁…くん」 呼び捨てで呼んでいいのか分からず、“くん”を付けた。彼は笑っていた。 そんなにおかしかっただろうか。私なりに勇気を振り絞ったつもりだが、どうやらそれが彼の笑いのツボに刺さったらしく、ずっと笑っていた。 「はい。なんですか?幸奈ちゃん」 わざと呼ばれたちゃん付けに、私の方も思わず笑ってしまった。 だって、愁には似合わないと思ってしまったから。
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