ひろう

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ひろう

 車を降りると、車内との寒暖差から身が縮こまる。莉名の震えは、どちらに起因しているのか判断が付かない。  数寄屋門を開けて庭に入ると同時に、空からふわりと結晶が落ちてきた。 「今日は一段と寒いからな」  仙台での観測状況は不明だが、俺たちにとっては初雪だった。  意思もなく地上へと舞い落ちる白い粒を、二人して両手で受け止める。  手に付着するなり、俺の熱で雪は跡形もなく消えていく。それでも、俺は今日ここで雪が降った事を忘れない。隣では、莉名が満面の笑みで空を仰いでいた。 「あれやぁ、初雪かいね」  雪に注意が散漫したことにより、ここが人の敷地内だというのを失念していた。婆ちゃんが吸い寄せられるように、縁側に面した窓を開け始める。莉名はビクッと身体を震撼させ、俺の傍へと寄って来た。 「婆ちゃん!」  あくまでゆっくりと、呼ばれた方へ身体を向ける。その表情がみるみるうちに、幸福の色を帯びていった。 「婆ちゃんと爺ちゃんにね、紹介したい人がいるんだ」 「じ、じいちゃん。博。ひろし!   大変だよ、こりゃ。はよ来なせぇって!」  婆ちゃんは一度身体を引っ込めると、外の異変を爺ちゃんへと報告しに向かう。  取り残された俺たちは、顔を見合わせて笑った。 「一応、顔見せ成功かな。 さ、寒いし早く中入ろ」  俺たちは雪で悴んだ手を繋いで、敷石の上を歩いていった。  《了》
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