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それから一ヶ月余り経った。
真也が目覚めたのは、付き合い始めたばかりの恋人の部屋だった。休み前だから少しはしゃぎ過ぎたかも知れない。いつもより起きる時間が遅かった。
目の前には、遅くまでいちゃついていた恋人が眠っていた。近くで見ると、本当に可愛い。出会った時から可愛くて仕方がなかったが、改めて見てもやっぱり可愛い。
「ん……何見てんの、真也」
恋人が目を覚ました。
「いや、可愛いなー、って思って」
「……バカ」
照れている姿もまた可愛い。
本当に、不思議な程に上手く行ったなと思う。この人を一目見た時から強烈な恋心を抱いて、相手も自分を好きになってくれて、互いにアプローチをかけ合った末に結ばれて。
思えば、最初から趣味は似通っていたのだから、想いが一致すればこうなるのも当たり前なのかも知れない。
「なんか、お腹すいた……」
まだ少しぼんやりしている恋人の言葉に、真也は起き上がった。案外朝が弱いのは、付き合い始めてから知ったことだった。知らないことが多いのは、これからどんどん相手のことを知れるということだ。例えば誕生日とか、故郷とか。
「俺、朝ごはん作るよ」
「そう? ありがと」
真也は恋人に微笑んだ。
「お安い御用だよ、──悠斗」
☆
「本当に、ありがとうございました」
神社の社務所で、結城麻里佳は巫女に深々と頭を下げた。
「後藤さんも山中さんも、どちらもしつこく言い寄って来ていて本当に迷惑していたんです。これで二人とも縁が切れます」
「私の力ではありません。ご祭神様のご利益です。ご祭神様は、悩める女性達の味方ですので」
巫女は厳かに言った。
「それにしても、まさかこんなに上手く行くなんて思いませんでした」
「後腐れなく縁を切る一番の方法は、相手に新しく縁を結んでしまうことですから」
巫女は懐からこよりの輪を取り出した。真也が切ったこよりだ。再び輪の形に結び直されたそれには、もう一本のこよりの輪がつながっていた。そのもう一本のこよりにはもちろん、真也の名前が書かれている。
好きでもない二人の男に言い寄られていた麻里佳は、縁切りで有名なこの神社に参拝した。その際、彼女の話を聞いた巫女に縁切りの方法を伝授されたのだった。
真也と山中、二人にさり気なく縁切り神社の噂を伝え、相手を蹴落そうと参拝に来た二人に縁切りの願かけをさせるように誘導する。
巫女は二人が切ったこよりを結び直して、互いに互いの縁がつながるようにした。これはこの神社に伝わる縁結びの方法であり、縁を切られた者同士を強力に結び付ける願かけだった。
結果はすぐに表れた。
それまで会ったことのなかった真也と山中だったが、ある日同時に麻里佳を誘おうとしてばったりと顔を合わせた。その、瞬間。二人は互いに一目惚れをして、激しい恋に落ちた。
結局二人は麻里佳のことなど忘れ、互いに夢中になった。二人は恋人同士となり、麻里佳は二人から解放された。
「当分男の人と付き合う気はありません。仕事も頑張りたいし。あの人達はあの人達で幸せになってくれればいいわ」
「もしまたお困りのことがありましたら、またお来しください。出来る限りのお力になります」
「ありがとうございます。友達で困ってる子がいたら、ここを紹介しますね」
麻里佳は颯爽と神社を後にした。美しい夕焼けが彼女を照らし出していた。社務所には巫女の姿は既になく、ただつながったこよりの輪だけが残されていた。
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