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馬鹿    従順       道化          媚び             孤独                不細工                    □  息を飲む。一枚一枚落としていく。    みんなの目がこちらを捉えていない瞬間を縫った。視界に入らないように小手先だけを動かした。身体から剥がされたそれらが地面に落ちていった。古巣との別離を惜しむようにふわりと放物線を描きながら落ちていった。   軌道を確認し終えて目線を元に戻す。 「あれ、なんか今日愛可愛くない?いつもと違うっていうか」  やられた。小林は私を見破っていた。    地面に落ちたそれらがしっかりと私の身体に連れ戻される。糊が剥がれないように念入りに私の肌に擦り付けられる。    失敗だ。今日も落とせなかった。 「あは、ばれちゃった。今日ちょっと朝早く目覚めちゃって。眉毛ちゃんと描いてみたんだけど。やっぱり変だよね」  急いで自分を全うする。あんなに捨てたかったそれらを再び大事に手繰り寄せて身体に纏っていく。 「んーん、全然変じゃないよ。可愛い。」  小林は知っている。私が落としたいものは何なのか。そして私がそれを落とすのを確実に防ぐにはどうしたら良いのか。 「超かわいい」  私とは真逆の言葉をあえて着せる。そしていかに私がその言葉に似つかわしくないかを大層親切に見せつけてくれる。みんなに、私に、ありありと見せつけてくれるのだ。    ふっ、と誰かが噴き出す声が漏れ聞こえる。似合わない装いをした私が滑稽なのだろう。 「可愛くないって。やっぱ私が化粧とかウケるよね。どうせ私なんか□だし。」  かわいい、こんな言葉が自分に不釣り合いなことは私が一番良く知っている。知っているから恥ずかしくて恥ずかしくて、みんなの前で辱められたことが悔しくて。自分からその言葉を脱ぎ捨てるしかなかった。    □のくせに、一丁前に自尊心ばかりがブクブクと太って。傷ついている事を悟られるのが怖くて。捨てたはずのそれらを引きつり笑いで着込むしかなかった。あんなに捨てたかったそれらで自分を隠すしかなかった。嫌悪していたそれらに縋りつくしかなかった。 「あれ、拗ねちゃった? そんなマジになんないでよ。愛はみんなの愛されマスコットじゃん。笑顔笑顔、ね」  欲しくない。着せられた可愛いも、押し付けられたマスコットも、課せられた名前も。何にも要らないのに。何にも持たずにいたいのに。何にも持たない私でいたいのに。  こちらに片眼を瞑って見せる小林にこんなにも腹が立っているのに、情けない私の表情筋は持ち主の心ではなく小林の言葉に従っていた。    作り上げた笑顔の下でいつの間にか握りしめていた拳を開くと、汗でしっとりと濡れていた。生き生きと代謝する60兆の細胞達がいつまでも変われない愚図で□な私を急かしているみたいだった。      
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