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バイトの先輩、久須木さんが連絡もなく職場へ来なくなってから二週間が経つ。
もともと仲の良かったわたしは、店長からお願いされて久須木さんのアパートを訪れていた。海辺の港町でもさらに浜辺にちかい久須木さんのアパートは、いつも海のにおいがする。
もしかしたら久須木さんはもう死んでるかもというイヤな妄想を頭から振り払って、わたしはインターフォンを鳴らした。
……返事はない。
いちおう「訪ねた」という店長への言い訳ができたから、べつにこのまま久須木さんが出て来なくてもかまわないと思っていたら、意に反してカギのあく音が聞こえ、少し開いたドアから不精ヒゲだらけの久須木さんが顔をのぞかせた。
「お久しぶりです」
「……民谷さんか」
言いながら、久須木さんはわたしの背後を確認するように外廊下へ視線を走らせた。
「わたしひとりですよ」
「……いや、そうだね。分かってはいるんだよ」
クセのある早口で言葉をならべる久須木さんは、いつもどおり挙動不審だった。
「店長が怒ってますよ。もうすぐクビにするとかって」
「ふふふ。そうか。クビか。クビになるのか。べつにそれはいいけどね。コンビニのバイトなんて、そんなにもらえないし」
言って、久須木さんがドアを大きく開いた。
「女性を招く部屋ではないが、まあ入りな」
促され、玄関になぜかバケツが転がっている、得体のしれない生臭ささがこもる部屋へあがった。
お世辞にも広いとは言えないワンルームのあちらこちらにはゴミが山積していて、天井近くの突っ張り棒にかけられた物干しハンガーには、玉虫色の団扇のようなものが何枚かぶら下っている。
「まあ、座りなよ」
小さなちゃぶ台の向こうに座った久須木さんが、座布団を放ってよこす。なぜか緊張しているせいで、わたしは座布団に正座して久須木さんと向かい合った。
「……なんで、こんなに長く無断欠勤してるんですか?」
「うん。すこし体調が悪くてね」
自嘲する久須木さんの頬は痩せこけ、土気色の顔にはじっとりと汗が浮き出ていた。
「大丈夫なんですか?」
「うん。もう大丈夫だよ。今日は特に気分が良いんだ。雨だからかな?」
意味の分からないことを言って笑う久須木さんをなぜか怖く感じた。
「お茶でも飲むかい? お茶」
「あ、はい」
わたしの返事にうなずいて、久須木さんが廊下の冷蔵庫へ向かった。
その間に改めて部屋を見回してみると、テレビ台の下にゴミ拾いトングがあった。久須木さんがゴミ拾いのボランティアをしているなんて聞いたこともないし、それどころか部屋の惨状を見る限り、とても掃除好きとも思えない。
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