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「慧さん!」
「大丈夫。あのインフェクトはそれほど力を溜め込んでいない。インフェクトになっても人の言葉を話すくらいだ。まだ日も浅いんだろう」
インフェクトは何度も何度もぶつかってくるが、無駄な攻撃だった。むしろ自分を傷つけているようなものだ。段々と弱ってきたインフェクトに、オウルがここぞとばかりに畳みかけてくる。
「グアアアッ、ガアアァァッ!!」
「蛍を侮辱するなんて、絶対に許せませんっ!!」
オウルもかなりご立腹のようだ。少しの容赦もなく、瞬く間に瘴気を食らい尽くしてしまう。
「グワァ……アァ……」
インフェクトは最後の咆哮をあげ、動かなくなった。その身体からは瘴気はすっかり消え去っている。オウルの羽は漆黒に染まっていた。
「オウル……」
オウルの浄化が始まった。辺り一帯が眩い光に覆われる。蛍は手を翳しながらその様子を見守った。
以前にも思ったが、真っ黒い羽が徐々に白くなっていく様や、オウル自身が光り輝いている様は、まるで天使が降臨しているかのような神々しさを感じる。
やがてその光は収まっていき、元の風景へと戻っていく。オウルの羽も元どおり白くなっており、一目散に蛍の左肩に飛んできた。
「蛍は平凡なんかではありません! 特別です!」
「オウル」
思わず笑ってしまう。
ゆりの言ったことは本当のことだ。ゆりに比べて自分は平凡だし、慧とは釣り合わない。それは十分わかっている。それでも。
「ゆりさんの言ったことなんて気にしません。見た目は釣り合わなくても、私は慧さんのヒーラーで、オウルの後輩です」
「コウハイ?」
「はい。慧さんを護ることに関しては、オウルは私の先輩ですから!」
「はい! 蛍は私の後輩です。先輩である私が蛍も護ります!」
「ったく、勝手なこと言ってくれちゃって」
ふと見ると、慧が腰に手を当てて拗ねたようにこちらを見ていた。
「勝手なこと?」
「そうだよ。見た目が釣り合わないなんて、僕は思ってないからね! 蛍ちゃんと僕ならベストカップルでしょ! それこそ誰もが羨むような」
「え、か、カップル!?」
「ダメです! 許しませんっ」
突進してくるオウルの攻撃をサラリと躱し、慧は蛍を腕に囲う。
「少なくとも、僕はそう思ってるよ」
「け、慧さんっ」
「慧!」
「わあっ!」
攻撃しようとクワッと嘴を開けて威嚇するオウルから身を躱しつつ、慧は自分の携帯を蛍に投げた。
「蛍ちゃん! 翔平君に連絡して!」
「は、はいっ」
慧はパーキング内を走り回っている。オウルは時折鋭い攻撃を仕掛けながら慧を追いかける。
「マスターと護りとはいったい……」
蛍はやれやれと苦笑しながら、慧の携帯から翔平の番号を呼び出す。ちなみに、ロック解除の番号は知らされていた。
「無防備だなぁ、慧さん。私が慧さんの携帯に悪戯したらどうするんだろ?」
ただ、本当に悪戯しようものなら、返り討ちに遭いそうでコワイ。この携帯にはどんな罠が仕掛けれられているかわからないのだ。なにせ慧は、相当優秀なシステムエンジニアという顔も持っている。
「こわっ」
蛍はブルルと身体を震わせ、翔平に電話をするためコールボタンを押した。
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