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「で、蛍ちゃん、面白い?」
慧がオウルを押しのけるようにして、もう一度蛍に尋ねてくる。蛍は苦笑いを浮かべながら、曖昧な返事をした。
「面白いというか……なんだか別世界って感じです」
「そうなの? この人、蛍ちゃんくらいの年齢の子にすごい影響力があるみたいだけど」
蛍がタブレットで見ていたのは、写真を投稿するSNSだ。
十代後半から二十代前半の女性たちから絶大な人気を集めているというインフルエンサー、YuriK(ユリック)のページ。バッチリメイクでコケティッシュな表情をしているアイコンが可愛らしく、目を引く。
写真の内容は主にファッションやメイクで、化粧品や食料品、家電製品などのモニターもしているらしく、それらの紹介も多い。
写真の背景となっているのは、広々とした部屋にお洒落な家具、小物類。見るからにセレブである。若い女性たちの憧れの的となるのもよくわかる。
「ん~……でも、私はこの人の真似をしたいとか、この人みたいになりたいというのは特に……」
世の女性たちが憧れる、という心理はわかる。だが、蛍自身がどうかというと、正直あまり興味がない。ファッションやメイクにそれほど関心があるわけでもないし、セレブになりたいという願望もない。
そもそも、部屋だけでいうと、蛍だって立派にセレブだ。社宅として借りている住まいは、一人暮らしにしては広すぎる3LDK。ダイニングキッチンもリビングもかなり広いし、個々の部屋だって最低六畳はあるのだ。家電だって最新のものが揃っている。ついでに家具もシックで落ち着いた色ではあるが、高級品だ。この部屋を写真に撮ってアップすれば、蛍だってインフルエンサー並みにフォロワー数を稼げるかもしれない。
「天羽さんらしいね」
翔平が笑う。同じく、慧もクスクスと笑みを漏らしていた。オウルはどうして二人が笑っているのかがわからないようで、身体を斜めに傾けている。
「蛍は蛍でいいのです!」
「ありがとうございます……?」
別に強がったわけではないのだが、そうオウルが言ってくるものだから、とりあえずお礼を言っておく。
「で、翔平君。この人がどうかした? SNSなんて縁がなさそうな翔平君がわざわざこんなページを見せてくるくらいだから、彼女に何かあるんでしょ?」
ニヤニヤしながらそう問う慧を見て、翔平は苦々しい顔をした。図星といったところだろうか。
「あぁ。それを今から説明するよ」
翔平の言葉を聞き、蛍の表情にピリッとした緊張が走るのだった。
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