憧れの裏側

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「彼女、YuriKは本名・鎌田(かまた)ゆりといって、二十一歳のインフルエンサー……って職業になっちゃうんだよねぇ、今」 「職業!?」  蛍が目を丸くすると、翔平は苦笑しながら頷く。様々な動画を投稿し、閲覧数を稼げる人たちはその広告収入で食べていけるご時世だ。インフルエンサーだってそれくらい稼げるのだろう。 「インフルエンサーにも広告収入ってあるんですね」 「そりゃそうだよ。それだけ影響力があるってことだし。彼女たちがいいというものを、支持する人たちが真似て購入する。いい宣伝だよね」 「あ! それを意図的にやってるんですね!」 「そういうこと」  さすがに慧はその辺りのことをよく理解している。  最近では若者のテレビ離れも進み、CMを打っても響きづらい。こういったSNSで宣伝をした方が目にもつきやすいし、効果も高いのだ。  インフルエンサーとは、多くの人々に支持されている人のこと。つまりは広告塔になり得る人ということになる。 「だから、いろんな商品のモニターをしてるんだ……」  化粧水などの基礎化粧品、口紅などのメイクアップコスメ、発売前の健康食品、サプリメント、美容ドリンク、エトセトラ。だがよくよく見てみると、競合しているメーカーの商品がアップされていたりする。 「このビタミンサプリなんて、こっちとこっちで会社が違うけど、こういうのっていいんですか?」 「あ、僕もそう思った」  翔平がうんうんと頷くと、慧がクスッと笑みを零した。 「彼女が事務所なんかに所属しているインフルエンサーで、企業側と契約を交わしているならアウトだね」 「事務所?」 「フォロワー数の多いインフルエンサーなんかは、PR会社がお抱えにすることもある。うちのインフルエンサーがあなたの会社の商品をPRしますよってね」 「なるほど……」 「でも彼女はそういった感じじゃなさそうだね。個人でモニター募集に応募して当選したって感じなんじゃないかな」 「あ、偶に見ますよね、そういう広告」  SNSを覗くと、お試しモニターの広告が流れてくることがある。それに、そういったキャンペーン情報ばかりを集めたサイトのようなものも存在するし、ゆりは懸賞マニアということか。 「でも……こんなに当選するものですか?」  蛍は首を傾げる。左肩にいるオウルも、蛍の真似をするように身体を傾けた。 「よほど運のよい人なのですね」 「そうですよねぇ……」 「いや、これはさすがの僕にもわかるかな」  おずおずと口を挟む翔平に、蛍とオウルが一斉に翔平の方を向く。といえど、オウルの姿は翔平には見えないのだが。 「どういうことですか? 翔平さん」 「そーだよ、どういうこと? 翔平君!」 「なんだよ、慧! お前だってわかってるんだろ!」 「さぁ~?」 「オウル、そいつ、つついて!」 「はい」 「ちょっと待って、フクちゃん! なんで翔平君の言うこと聞いちゃうの!?」 「オウル、僕の言うこと聞いてくれるんだ……」  翔平はじーんと感動している。だがこのままでは話が進まない。蛍は身を乗り出し、翔平をじぃっとねめつけた。 「うわぁっ!」 「翔平さん、どういうことなんですか!?」 「は、はいっ」  十ほど年の離れた小娘から脅される刑事、さすが翔平である。翔平は慌てて続きを話し始める。 「企業としては、自社の商品をできるだけ多くの人に宣伝してもらいたいだろう? だったら、フォロワー数の多い人に当選させると思うんだ」 「え……厳正なる抽選じゃないんですか?」 「そう書いてあったとしても、厳正なるとは言い難いんじゃないかなぁ?」 「そうなんですね……」  なんとなくショックである。  企業側としては、できるだけ多くの人に宣伝したいだろう。それはわかる。だが、それでは不公平だ。フォロワー数の多い人ばかりが得をし、少ない人は何度応募しても当たらないということではないか。
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