510人が本棚に入れています
本棚に追加
/95ページ
「まぁ、全部が全部そうじゃないかもだし、普通のプレゼントキャンペーンならそんなことはないと思うよ」
慧が口を挟む。蛍を落ち込ませてしまった翔平も、大慌てでコクコクと何度も頷いていた。翔平に気を遣わせてしまったと、蛍は何とか笑みを作る。
「そうですよね。でもやっぱり……モニターのキャンペーンってそういうものなのかな……」
「そうだね。そんなことは大っぴらにされていないだろうけど、わかってる人はわかってる。だから、フォロワーの水増しなんて不正も起きる」
「そんなことができるんですか?」
友だち同士でフォローし合ってもたかがしれている。水増しなんて本当にできるのだろうか?
しかし、慧はニッと笑ってタブレットを操作した。
「ほら、いろんな方法が載ってるでしょ?」
「はぁ……」
インターネットでちょこっと検索をかけるだけで、そういった内容の記事が引っ掛かる。それだけ常態化しているということだろう。
不正を防ぐためにSNSの運営側は対策を講じる。すると、楽して儲けようとする者が更に知恵を絞り……といたちごっこは続いていく。
そんなことに知恵を絞るくらいなら、もっと人のためになるようなことを考えればいいのに、と思う。
「鎌田ゆりさんはフォロワー数が多いから、モニターなどに当選しやすいってことですよね。だから競合するような商品のモニターにもブッキングして当選している」
「そういうこと」
こういった写真を見ているフォロワーは、嫌な気持ちにはならないのだろうか。今日はこっちの会社の商品を紹介、今度はこっち、同じビタミンサプリなのにどっちもいいと褒めちぎる。どっちなんだよ、と思うフォロワーはいないのだろうか。
蛍の表情を見て言いたいことがわかったのか、慧が先回りをするように言った。
「こういうのを嫌だと思う人は、フォローを外す。でも、複数当選していることに対しても憧れるんだろうね。この人は特別だからいろんな物を与えられるんだって」
「そんな……」
蛍には理解できないが、そういった考え方もあるのだろう。SNSの世界とは何とも摩訶不思議だ。普通の一般人でさえ、芸能人のような扱いをされるのだから。
「とまぁ、横道に逸れちゃったけど。話を元に戻すとね、彼女の周りで事件が起こっている」
「どんな事件なんですか?」
「彼女の熱狂的なファンの数人が自殺をした」
「え……」
ゆりのファンというなら、おそらくまだ若い女性だ。何があったというのだろう。
「蛍、大丈夫ですか?」
左肩にいるオウルが蛍の頬を優しくちょんちょんとつつく。蛍はぎこちない笑みを浮かべ、小さく頷いた。
翔平がここへ依頼に来るということはそういうことなのだ。インフェクト絡みが疑われるきな臭い事件の話を耳にすることになる。
覚悟していたとはいえ、聞いてしまうと心が痛くなる。だからといって、逃げるなんていう選択肢はない。だが、立ち向かうと決めていても心が沈んでしまうのはどうしようもない。こればかりはずっと慣れないのだろうなと思う。
「大丈夫です、すみません。いちいちショックを受けちゃ、この先やっていけないですよね」
蛍が肩を落としてポツリと呟くと、ふわりと頭が温かくなった。顔を上げると、慧が労わるような優しい笑みを向け、蛍の頭をポンポンと撫でる。
「いいんだよ。蛍ちゃんのその感覚は普通だから。普通を忘れちゃダメだ」
「慧さん……」
「うん。こんな話を平気で聞けるようになんてならないで。天羽さんはそのまま変わらないでいてほしい」
翔平もそう言ってニコリと笑う。
「蛍が悲しいなら、私がずっと側にいます!」
「オウル」
「ちょっとフクちゃん! どさくさに紛れて何言ってんの!!」
また喧嘩を始める慧とオウルを見て、それから翔平を見る。こんな風に明るく元気づけてくれる彼らが大切で愛おしい。絶対に失いたくない。この人たちがいれば自分は一人じゃない、安心して頼ってもいいのだと思える。その代わり、彼らに何かあれば絶対に駆け付け、力を貸すのだ。蛍の力といっても、それはほんの僅かだろうけれど。
蛍は皆に向かってニッコリと微笑む。
「ありがとうございます。もう大丈夫ですから、翔平さん、続けてください」
「あ、うん。わかった」
翔平はホッと安心したように笑み、慧は最後にポン、と一度だけ蛍の頭を撫でた後、腕を引っ込める。オウルはキスをするように、ちょんと軽く頬をつついた。
最初のコメントを投稿しよう!