憧れの裏側

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「で、翔平君、その自殺した人たちの共通点は? 鎌田ゆりの熱狂的なファンって以外もあるんでしょ?」 「あぁ」  翔平は資料を見せながら説明する。 「自殺したのはいずれも女性で、四人」 「まだ早い段階だ。よく気付いたね」 「あぁ。たまたま組織犯罪対策部にいる同期から話を聞いて、ちょっと気になってさ」 「組織犯罪対策部って……反社会的組織なんかを相手にしているところですよね?」 「うん、そうだよ」  四人の女性の死に、反社会的勢力が関わっているというのだろうか。もしかして、組織に自殺に見せかけて殺されてしまったとか?  しかし、翔平の話はそうではなかった。 「反社会的勢力がバックについている金融業者から多額の借金をしていたんだ。しかも、四人とも同じ業者から」 「鎌田ゆりの真似をして、彼女の持っているものと同じものを買い漁ったとか?」 「まさにそうなんだよ」  慧と翔平の問答を聞き、蛍は目を見開いた。 「え? 借金してまでそんなことしますか?」  蛍には考えられない。いくら憧れの人に近づきたいからといって、借金をしてまで同じものを持とうとするなんて。 「だから熱狂的なんだよ。ゆりの勧めるものは全て手に入れる。そして自分もSNSでそれを自慢する。たくさんの「いいね」がつく。多くの人間が自分を羨むんだ。一度そういう快感を味わってしまうと、そう簡単には抜け出せなくなる。そうなるともう泥沼だ」 「そんな……」  気持ちとしてわからなくはない。人から羨ましがられるというのは何気にいい気分だ。自分が認められたような気になる。 「それに、一度借金すると歯止めがきかなくなるんだよ。感覚が麻痺するっていうのかな」 「後で返すことを考えれば、借りるということがどれだけ大変なことか……」 「うん。でも、返すことまで考えてないと思うよ。目の前の欲求を満たすことしか考えられなくなってる。正常な思考なんてないよ」  翔平の言うことはよくわかる。確かにそうなのだろう。  人に憧れるというのはキラキラした感情だけではないんだな、と蛍は複雑な気持ちになった。 「多額の借金をしたので、殺されてしまったのですか?」  珍しくオウルが途中で口を挟んでくる。翔平は一瞬目をぱちくりとさせたが、蛍の左肩に向かって笑みを向けた。姿は見えないというのに律儀だ。 「ううん、違うんだ」 「どうしてそう言い切れるのですか?」 「だって、彼女たちを殺してしまったら、貸したお金が回収できないだろう?」 「なるほど……そうですね」  納得したようにオウルが大きな目をゆっくりと閉じ、再び開ける。  金融業者は彼女たちから融資した金を回収しなくてはならない。だから殺さない。とすると、彼女たちは多額の借金を苦に自ら命を絶った……。
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