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「亡くなった四人が同じ金融業者を使っていた理由は?」
慧が尋ねると、翔平が少し言いづらそうに言った。
「……ゆりからの紹介だそうだ」
「えっ!?」
どういうことだ? どうしてゆりが彼女たちにそんな業者を紹介するのか。
蛍は全くわからなかったが、慧は思案顔になった。どうやら慧には見当がついたらしい。
「慧さんはもうわかってるんですか?」
蛍の問いに、慧は皮肉げに口角を上げた。
「蛍ちゃん、残念ながら、鎌田ゆりも亡くなった彼女たちと同じなんだよ」
「同じ?」
益々訳がわからない。蛍が首を傾げると、慧はそれを見てプッと噴き出す。
「慧さん、ヒドイ! なんで笑うんですか?」
「いやいやいや、だって蛍ちゃんとフクちゃんが同じ方向に傾いてるから」
どうやらオウルも首を傾げる動作をしていたらしい。翔平は「えー、そうなの? 僕も見たいよ……」と情けない声をあげていた。
慧はコホンと咳払いをし、気を取り直すと話を続ける。
「鎌田ゆりは写真を見る限り、セレブなお嬢様だ。でも、それは仮初の姿」
「仮初……」
「だろ? 翔平君」
翔平が目線を伏せ、コクリと頷いた。
「慧の言うとおり、SNSの中のYuriKは仮の姿で、本来の鎌田ゆりは、借金まみれで首が回らなくなってる」
「え、そんな、だって……」
ゆりは毎日写真をアップしている。多い日には二度も三度も。その度に自分のセレブっぷりをアピールしているのだ。
ブランドもののバッグや化粧品、洋服なども見るからにいいものばかりだ。それなのに、借金で首が回らない?
「お金がないってことですよね? だったら彼女はどうやって生活を?」
ただ生きていくだけでもそれなりにお金は必要になる。家賃に光熱費などの公共料金、通信費、食費、それらはどうしているのだろう?
「家賃は数ヵ月に一度しか払っていない。滞納ぎみで管理会社からしょっちゅう督促状が届いている。公共料金や通信費なんかもいつも遅れて支払われている。これらの支払いにも借金をしていて、額は膨れるばかりだ」
「ご飯はどうしてるんでしょう?」
「あー、それはモニターで当選した食品なんかで結構まかなえてるみたいだ。それに、ゆりはコンビニでアルバイトをしていて、賞味期限切れで廃棄されるようなものを貰ってきているらしい」
これほど華やかな生活を演出しているというのに、実際は借金地獄というわけか。想像するとゾッとしてしまう。
「あ! ということは、ゆりさんは自分が借金をしている金融業者を彼女たちに紹介したってことなんですね。でもどうしてそんなことを?」
ゆりが四人に同じ金融業者を紹介した理由はわかった。だが、そうすることにメリットがあるのだろうか。
「どうやらゆりは、客を紹介することで業者からリベートを受け取っていたらしい。まぁ受け取るというのは正しくなくて、その分をゆり自身の返済に回していたようだけど」
「……」
言葉が出てこない。ゆりは自分の借金の返済のために、自分を支持してくれている女性たちを同じ借金地獄に引きずりこんだのだ。
「亡くなった彼女たちにはそういった便宜は図らなかったの? 業者的にはその方がおいしいでしょ?」
「あぁ。だがそうする前に、彼女たちは亡くなってしまった」
「便宜を図る前だとすると……彼女たちの借金は、ゆりのように身動きできなくなるほどじゃなかったってこと?」
「そうなんだ。確かに多額ではあるけど、全員それなりの会社に勤めていて、これまでの散財を改めて借金を返すことに専念すれば、返せない額じゃなかった」
「ふぅ~ん……」
キラリと慧の瞳が光った気がした。慧の気配が変わったのがわかったのか、オウルがピクッと反応する。
オウルは蛍の肩から離れ、慧の手にあるタブレットの上に乗った。そして、食い入るようにゆりの写真を見つめる。
「フクちゃん、わかる?」
「……」
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