憧れの裏側

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 慧の声が聞こえていないかのように、オウルは一心不乱にゆりを見ている。蛍も慧の方に身体を寄せ、ゆりの写真を眺めた。  オウルは、ゆりがインフェクトかどうかを確かめようとしている。オウルはその人物を一見するだけで、インフェクトかどうかを見分けることができるのだ。そして蛍にも、その能力の片鱗がある。  オウルは首をくるりと回し、蛍の方を見た。何も言わなくてもわかる。蛍はコクンと頷いた。 「なんか二人でわかり合ってるって感じで、嫉妬……」 「はいはい、お前は勝手に嫉妬でも何でもしてろ。オウル、天羽さん、ゆりはインフェクトなの?」 「勝手にって、翔平君ヒドイ!!」  慧がいじけている。蛍はハァ、と小さく溜息をつきながら苦笑いを浮かべるが、オウルは完全にスルーし、蛍の左肩に戻る。そして、蛍の髪を嘴でつついて遊び始めた。 「チッ。フクちゃん、興味失ってるし」 「どういうことだよ、慧」 「そのまんまだよ。写真じゃゆりがインフェクトかどうかはわからない。そういうことだよね、蛍ちゃん」  慧の言葉に蛍は気まずそうに頷く。  そうなのだ。写真では気配が察知できないからか、インフェクトかどうかはよくわからない。  蛍の場合は身体に強い悪寒が走るのだが、よくよく考えてみると、写真を見て悪寒が走るというのは無理がある。オウルはどうやって判断するのかわからないが、気配を察するのは同じだろう。 「写真では判断ができないです」 「そっか。まぁ、難しいよね」 「翔平さん、ゆりさんに会うことはできますか?」  蛍が尋ねると、翔平は難しい顔をした。 「警察を介して会うのは難しいかもしれないね。四人の女性とゆりが面識があったという確認は取れているけど、死に関係しているという確証はないから」 「でも、組対(そたい)は疑ってるんじゃないの?」 「僕の同期はね。でも、彼らの目当てはあくまで金融業者の方だ。そこから反社を切り崩すのが目的だから」 「なるほど。じゃ、ゆりの住所を教えてもらえるかな」 「あぁ、この資料の中にある」  翔平から資料を受け取り、慧がざっと中身を確認した。パラパラとページをめくった後、それを蛍に渡す。いつもながら速読が半端ない。  慧は速読に長けていて、しかもその内容を全て頭に叩き込んでいる。もちろん、ゆりのプロフィールや亡くなった女性たちの情報もすでに頭に入っているのだろう。  蛍も急いでゆりのプロフィールだけでも目を通す。 「ゆりさんって、モデル志望なんですね」 「SNSで注目されることで、そういった仕事の関係者の目に留まることを期待してるんだろうね」  オーディションやスカウトだけでなく、昨今ではSNSを通じて芸能界入りする人たちも増えている。SNSですでに多くのファンがいることもあり、一気にブレイクすることもあるのだ。  ゆりは高校生の頃から数々のオーディションを受けているようだが、いずれも不合格。事務所などには所属していない。 「こんなに綺麗でスタイルもいいのに、スカウトとかされなかったのかな……」  オーディションを受けまくっているくらいなのだから、スカウト目的で原宿や渋谷などにも通っていそうだ。  慧はもう一度タブレットの中のゆりの写真を見て、ひょいと肩を竦めた。 「これくらいの子なら、普通だよね」 「えぇっ!?」  蛍からすると、ゆりはかなりの美人で高嶺の花だ。それなのに、慧は普通とまで言ってのける。これで普通なら、蛍などどうなってしまうのだろうか。そう考えて大きく凹む。
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