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蛍は冷蔵庫に入れていた残ったお弁当を、慧の家まで運ぶ。余ったのはおかずばかりだったので、今日家を出る前にセットしていたご飯でおにぎりを握って、それも追加する。キッチンでそれらを広げた時、慧とオウルが目を輝かせた。
「美味しそうだ」
「私も食べたいです! 今日のお昼も、あの二人が羨ましくてたまりませんでした」
「わかる! フクちゃん、僕も羨ましかった!」
珍しく意気投合している。
蛍は笑いながらレンジを借り、おかずを温めていく。それらを皿に並べ、それで夕食の準備は完了だ。
「蛍、私の分も用意してくれたのですね」
「もちろんですよ!」
オウルの前には、食べやすい大きさにした玉子焼きや唐揚げ、ミニトマトにレタス、ハンバーグにスパゲティ、小さい丸いおにぎりまで並べてあった。
これならフクロウの嘴でも食べられるだろう。オウルは嬉々として蛍の左肩へ飛んで行く。そして、蛍の頬を何度もちょんちょんとつついた。
「ありがとうございます!」
「はいはい。そんなに喜んでもらえて光栄です」
慧を見ると、頬杖をつき目を細めながら、並べられた品々を眺めている。その懐かしげな表情に、自分の幼かった頃でも思い出しているのだろうかと思った。
慧は蛍を見上げ、穏やかな笑みを浮かべる。
「お弁当なんてほとんど食べたことないから、本当に嬉しいよ」
「え……」
「うちは特殊な環境でね、こういった手作りのお弁当って、なかなか作ってもらえる機会がなかったんだ」
「そう……だったんですね」
蛍の胸がきゅっと苦しくなる。
慧の家がどんな風だったのかは知らない。だが、慧の背負っているものの大きさから考えると、平々凡々な家庭ではないような気はしていた。
興味がないと言えば嘘になるが、あえて聞こうとは思わない。慧が話したいと思った時、聞かせてもらえればいいと思っている。
その片鱗を今聞いてしまったわけだが、それだけでも胸が痛む。
しかし、蛍は慧に満面の笑顔を向けた。ここでしんみりしてはいけない。蛍が悲しめば、慧は話そうとしなくなるだろう。
「それじゃ、また作りますね。慧さん、事務所ではいつもサンドイッチとコーヒーばっかりだし、栄養あるものも食べないと」
「ほんと!?」
「はい」
「蛍、私も食べたいです!」
「もちろん、オウルの分も用意します」
オウルはもう一度蛍の頬を軽くつつき、自分の席へ戻る。蛍も座って、手を合わせた。オウルは無理なので、羽を広げる。
「いただきます!」
皆で声を合わせてそう言った後、お弁当の夕食が始まった。
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