光の道標

19/27
前へ
/95ページ
次へ
 蛍は冷蔵庫に入れていた残ったお弁当を、慧の家まで運ぶ。余ったのはおかずばかりだったので、今日家を出る前にセットしていたご飯でおにぎりを握って、それも追加する。キッチンでそれらを広げた時、慧とオウルが目を輝かせた。 「美味しそうだ」 「私も食べたいです! 今日のお昼も、あの二人が羨ましくてたまりませんでした」 「わかる! フクちゃん、僕も羨ましかった!」  珍しく意気投合している。  蛍は笑いながらレンジを借り、おかずを温めていく。それらを皿に並べ、それで夕食の準備は完了だ。 「蛍、私の分も用意してくれたのですね」 「もちろんですよ!」  オウルの前には、食べやすい大きさにした玉子焼きや唐揚げ、ミニトマトにレタス、ハンバーグにスパゲティ、小さい丸いおにぎりまで並べてあった。  これならフクロウの嘴でも食べられるだろう。オウルは嬉々として蛍の左肩へ飛んで行く。そして、蛍の頬を何度もちょんちょんとつついた。 「ありがとうございます!」 「はいはい。そんなに喜んでもらえて光栄です」  慧を見ると、頬杖をつき目を細めながら、並べられた品々を眺めている。その懐かしげな表情に、自分の幼かった頃でも思い出しているのだろうかと思った。  慧は蛍を見上げ、穏やかな笑みを浮かべる。 「お弁当なんてほとんど食べたことないから、本当に嬉しいよ」 「え……」 「うちは特殊な環境でね、こういった手作りのお弁当って、なかなか作ってもらえる機会がなかったんだ」 「そう……だったんですね」  蛍の胸がきゅっと苦しくなる。  慧の家がどんな風だったのかは知らない。だが、慧の背負っているものの大きさから考えると、平々凡々な家庭ではないような気はしていた。  興味がないと言えば嘘になるが、あえて聞こうとは思わない。慧が話したいと思った時、聞かせてもらえればいいと思っている。  その片鱗を今聞いてしまったわけだが、それだけでも胸が痛む。  しかし、蛍は慧に満面の笑顔を向けた。ここでしんみりしてはいけない。蛍が悲しめば、慧は話そうとしなくなるだろう。 「それじゃ、また作りますね。慧さん、事務所ではいつもサンドイッチとコーヒーばっかりだし、栄養あるものも食べないと」 「ほんと!?」 「はい」 「蛍、私も食べたいです!」 「もちろん、オウルの分も用意します」  オウルはもう一度蛍の頬を軽くつつき、自分の席へ戻る。蛍も座って、手を合わせた。オウルは無理なので、羽を広げる。 「いただきます!」  皆で声を合わせてそう言った後、お弁当の夕食が始まった。
/95ページ

最初のコメントを投稿しよう!

521人が本棚に入れています
本棚に追加