憧れの裏側

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「蛍、どうしたのですか?」  オウルが蛍の様子を見て声をかけてくる。蛍はオウルを見遣り、力なく笑った。 「だって、ゆりさんが普通なら、私なんて下の下じゃないですか」 「そんなことはありません!」 「蛍ちゃんは別格だから!」  オウルと慧の声が重なる。二人の大声にビクッと身体を震わせると、翔平がクックッと笑い出した。 「天羽さん、慧が言ってるのは、モデル志望としては華がないってことだと思うよ」 「そう、そうなんだ! 翔平君、偶にはいいこと言う!」 「偶にはってなんだよ!」 「そう……なのかなぁ?」  モデル志望の女性はたくさんいて、実際になれるのはごく一握りの人たち。その中で有名になり売れっ子になるのは更に一握り。ピラミッドの頂点は限りなく遠く、まさしく選ばれし者だけが辿り着ける場所。ゆりだって十分綺麗で可愛らしく、魅力的だと思う。それでも、夢の一歩にさえまだ踏み出せていないのだ。  それでもゆりは、その頂点を目指しているのだろう。そうでなければ、借金苦に陥ってまでこんなことを続けようなどとはきっと思わない。 「見た目全体が整ってさえいればいいってものじゃないんだよね、こういうのって」 「……慧さんは、自分が整ってるからそんなことが言えるんですよ」 「わかるっ! それ、すっごくわかるよ、天羽さん!」  何故か力いっぱい同意する翔平に、蛍は呆気に取られて思わず笑ってしまった。翔平もいろいろと溜め込んでいるのだろう。 「ですよね!」 「うん!」 「うわー、なに!? ここぞとばかりに攻撃してくれちゃってまぁ……おまけに蛍ちゃんと一致団結するとか許せないんだけど!」 「許せませんっ!」  オウルもクワッと嘴を開けて威嚇する。が、残念ながら翔平には見えない。 「フクちゃん、翔平君には見えないんだから、つついてきた方がいいよ!」 「え、ちょっと待て! オウル、ダメだよ! やめてくれっ!」 「オウル、ダメですよ。攻撃するのは慧さんだけにしてください」 「……わかりました。蛍がそう言うなら仕方ありません」 「ちょっとフクちゃんっ!」  またもや慧にそっぽを向くオウルの額を何度も撫でながら、蛍はすっくと立ち上がった。 「蛍ちゃん?」 「慧さん、ゆりさんに会いに行きましょう。まずは彼女がインフェクトかどうかを確かめなきゃ」  ゆりがもしインフェクトなら、亡くなった四人は自殺といえどインフェクトの犠牲者となる。それに、ぐずぐずしていると次の犠牲者がまた出てしまうかもしれないのだ。犠牲者が増えれば増えるだけ、そのインフェクトの力も増してしまう。  蛍は慧をじっと見つめる。慧は楽しげに口角を上げ、ゆっくりと立ち上がった。何気ない動作にもハッと目を見張るものがある。慧を見て、こういうのが華というものなのだろうな、と蛍は漠然と感じた。 「せっかく翔平君が早い段階で気付いてくれた案件だ。おそらくゆりはインフェクトだろう。それを確かめてくるよ。そして……もうこれ以上の犠牲は出さない」  慧の力強い言葉に、翔平は笑顔で応える。 「僕はもう少しゆりの背景について詳しく調べてみる。インフェクトになるには、それなりに強い負の思念があるはずだから」 「そうだね。そっちは頼んだよ、翔平君」  翔平も立ち上がり、全員で視線を交わす。そしてそれぞれに小さく頷くと、行動を開始するためこの場を後にするのだった。
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