光の道標

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 慧がどのように力を加減しているのかわからない。慧の放つ光の矢を受けても、亘輝は傷つきもせず、多少苦しむ程度で済んでいた。  一方、亘輝を取り巻く空気がどんどん濁っていく。気配だけなのがもどかしい。澱み自体がもっと外に出れば、状況は変わるのに。  それでも、オウルは懸命に亘輝の澱みを吸収していた。しかし、オウルも焦れているのがわかる。ちょっと吸収しては辺りをビュンビュンと飛び回る。それがまるで苛ついているように見えた。 「くそっ……。これじゃどうにもならない」  あまり大きな力を放ってしまうと、亘輝を傷つけることになりかねない、慧はそれを懸念しているのだ。  その時、おもむろに亘輝がこちらをチラリと見た。亘輝の意識が戻ったのかと思いきや、そうではない。こちらを見る亘輝の口元が、ニヤリと厭らしく歪んだ。 「……亘輝君っ」 「オリジンの仕業か……」 「七桜がいるんですか!?」 「近くじゃない。でも、微かに気配を感じる」  慧が悔しげに舌打ちし、小さく頭を振る。  慧は必死に考えている。どうすれば亘輝を救えるのか。どうすれば、亘輝の澱みを全てなくしてしまえるのかを。  蛍も考える。いい考えが思いつくとは思えなかったが、ここでぼんやりしていても埒が明かない。 「くそ、くそ、くそっ!!」  慧らしくなく、何度も悪態をつく。  これがインフェクトなら、迷わず対処できる。だが、亘輝はインフェクトではない。力をセーブしなければいけない、しかしそれでは全く効かない。激しいジレンマだ。  蛍の視線が下を向く。蛍を庇う片方の手、握りこぶしが僅かに震えていた。慧の心の葛藤が痛いほど伝わってくる。 「慧さん……」  側にいて何もできないなら、せめて少しでも癒したい。蛍は慧のヒーラーなのだ。癒し、回復するのが仕事なのだから。  蛍は、そっと慧の手を握った。 「蛍ちゃん……」 「ごめんなさい。私には……これくらいしかできない」  突然、蛍の頭上で小さな笑い声がした。そして慧が力強く蛍の手を握り返す。驚いて顔を上げると、慧はまるで息を吹き返したかのように活き活きと瞳を輝かせていた。 「慧さん?」 「さすが……僕のヒーラーだ。この手があった」 「?」  戸惑う蛍に構わず、慧は一旦手を離し、今度は指を絡めて手を繋ぐ。所謂、恋人繋ぎだ。 「慧っ!」  結界の外からオウルの声が聞こえた。  澱みを吸収できないもどかしさで苛ついている上、慧が蛍と恋人繋ぎをしている。オウルの怒りは頂点に達した。ビリッと結界が震える。 「慧さんっ、オウルがめちゃくちゃ怒ってます!」 「まぁ、これだけ餌を焦らされたらイライラもするよね」 「いや、そうじゃなくて!」 「その上、僕がこーんな風に蛍ちゃんと手を繋いでいちゃいちゃしてればね、さすがに怒るでしょ」 「慧さんっ!」  慧の口角が挑戦的にクイと上がる。その表情に思わず目を奪われた。 「オウル! 一気にいくよ!」  慧はオウルに発破をかけると、今度は蛍に向かって言う。 「蛍ちゃん、力を貸して」 「……!」  蛍は条件反射のようにぎゅっと目を閉じ、慧にヒーラーの力を注ぎ込む。  最初はあまりにも多く注ぎ込んでしまったため、慧が人差し指でちょいちょいと合図を出し、蛍はハッとして力を加減する。蛍の力が安定した頃を見計らい、慧はもう一度亘輝に向けて腕を伸ばした。  今なら蛍にもわかる。慧は自分の力と蛍の力とを合わせ、亘輝を止めようとしているのだ。 『マスターとヒーラーが力のやり取りでお互いを補強できるってことはフクちゃんも知ってるでしょ!?』  以前にも、こうやって恋人繋ぎで戦いに挑んだことがあった。その時の慧の言葉を思い出す。  そうだ。マスターとヒーラーは、互いの力のやり取りをすることでお互いを補強できる。簡単に言うと、二人とも強くなれるということだ。  慧の力が強くなってしまうと、亘輝を傷つけることにならないのか。それはないと、蛍は確信できた。何故なら、蛍の力は「回復」だからだ。蛍の力も含まれた慧の力なら、おそらく今より加減を解いても亘輝を傷つけはしない。  蛍は集中を切らさず、絶えず慧に一定の力を注ぎ込む。 「いくよ」 「はい」  亘輝に向かって伸びた慧の腕から、今まで以上に大きな光の矢が凄まじい勢いで放たれた。
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