光の道標

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「ああああーーーーーっ!!」  光の矢が亘輝を射抜くと、これまでとは打って変わり、亘輝が激しく身体を揺らし始めた。胸の辺りを押さえ、ひたすら喚きまくっている。  光の矢は亘輝を射抜いたように見えたが、実は亘輝の中に吸収されていた。光と澱みが混ざりあい、亘輝の中でせめぎ合っている。  苦しげな表情の亘輝から目を逸らしたくなる。だが、逸らすわけにはいかない。亘輝も戦っているのだ。 「もう一度だ」 「慧さん、亘輝君、あんなに苦しんで……っ」 「だからだよ」  驚くほど淡々とした口調で言ってのける慧に、一気に体温が下がっていくような気がした。  慧は腕を伸ばし、容赦なく亘輝に光の矢を放とうとしている。あれほど奇声をあげながらのたうち回っている亘輝を、更に攻撃するというのか。  蛍は唇を噛みしめる。わかってはいるのだ。慧は亘輝を救おうとしている。だからこれは、正しい行いなのだ。 「亘輝、戻ってこい!」  慧が亘輝に向かって叫び、再び光の矢を放った。その矢も亘輝の中に吸収され、亘輝が断末魔のような叫び声をあげる。  その瞬間、亘輝の身体からぶわりと怪しい靄のようなものが噴き出した。 「今だ、オウル!」  靄はどんどん亘輝の中から溢れ出てくる。亘輝の中で量を増していた澱み、それが慧の放った力に対抗できずに外へ出てきたのだ。  オウルはここぞとばかりにその澱みを喰らっていく。これまでの鬱憤を晴らすかのようなスピードと勢いに、蛍はしばらくそれを眺めていたが、やがて視線を逸らす。あまりの速さに目がついていけず、頭がふらついた。そんな蛍を支えるように、慧が腕の中に蛍を囲う。 「慧さん……」 「辛かったでしょ? ごめんね」 「そんな……」  慧は、苦しんでいる亘輝に更に攻撃したことを言っている。辛かったのは、蛍だけではないというのに。  蛍は慧の腕を掴み、何度も首を横に振った。 「慧さんだって、辛かったはずです。ごめんなさい」 「……今回は蛍ちゃんのお手柄だよ。これで亘輝が救われたら、僕たちは一つ希望を手にしたことになる」 「希望……」 「人のインフェクト化を止める力が、僕たちにはあるってこと」  慧の指差す方へ目を遣ると、亘輝の澱みがどんどん消えていくのが見えた。オウルが凄まじい勢いで吸収しているからだ。だが、オウルの羽は真っ白なまま。  瘴気を吸収した後は真っ黒になり、それから浄化が始まるのだが、今回はどうするのだろうか。  亘輝の周りに渦巻いていた澱みが完全に取り払われる。ものすごい量に膨れ上がっていたというのに、オウルはそれを一気に吸収してしまった。  亘輝の身体がゆっくりと地に倒れる。まるで何かに支えられているかのように緩やかにだ。これなら怪我はない。 「オウル!」  オウルの身体が光を放つ。浄化が始まったのだ。だが、光の強さは瘴気の時よりも大きくはない。それでも、辺り一面が明るくなる。  瘴気の時はとても見ていられないほど眩しいのだが、今は違う。目を細める程度で、それを見ていることができる。  オウルは光を放ちながら、ゆったりと翼を羽ばたかせ、上空を舞う。ふわり、ふわりと柔らかい動きで空を飛んでいるオウルは、優雅で神々しかった。  やがて光が穏やかになり、段々と小さくなって、ポッと消える。元のオウルに戻った途端、オウルは一目散に蛍の元へ飛んできた。
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