救いの信仰

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 同じ教団の人たちからは、「若いのに偉い」と褒められ、僕は外の世界は修行の場で教団の中は休息の場だとすら思っていた。  案の定、今日も水が上から振ってきた。僕は沈みそうになる気持ちを克服するように、祈りを口にする。  個室の外から、「きもちわりぃ」という声。 悪魔の声に耳を貸さないように、僕は必死でブツブツと唱え続けた。  しばらくすると、外からは何も聞こえなくなる。僕は打ち勝った事への安堵の息を吐き、着替えてから外に出た。洗面所で手を洗い、タオルで頭を拭う。  ふと鏡越しにこちらを見つめる目と視線が合わさる。生気なくした人間みたいなそれは、どう見ても僕ではなかった。  教室に戻る途中の廊下で、賑やかな集団がこちらに向かってきた。  その中心となる神藤くんの姿に、周りにいる人がお付きの人のように見える。  僕に気づいたであろう神藤くんは、一瞬眉をしかめてから口角を上げた。  僕が無事に試練に打ち勝ったのだと、神藤くんは気づいたのかもしれない。そう思うと、心が洗われるように感じた。  それはどんな祈りよりも、僕には大きな救いだった。  十一月に入り、高校受験を控えていた僕に家族は、より一層信仰に励むようになっていた。その期待に応えるように僕も、勉強に精を出す。  その一方で、ストレスのはけ口として、僕の持ち物が消える頻度が高くなった。
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